第10話 夏休み

 結論を言うと、美術部のあの人に会う機会は来ず、先に夏休みに入ってしまう。


 休みに入る前に、定期検査をする為に病院に行き、問題ないと言われた。これで、思いっきり夏休みを満喫できる。大抵誰しもがそう考えるだろう。しかし、僕は病院に行くことが多く、学校を休むことが多かった。おかげさまで、学生が一番喜ぶとされる休みの有難みは薄く感じる。


「とりあえず、宿題終わらせよ」


 まぁ入院したり夏休みに入っても変わらないものはある。それは、学校の宿題。いつも宿題は早く終わらせるようにしている。終わらせたら終らせたで、遊び放題という訳じゃない。ていうか、遊ぶ約束すらしてないから宿題を終わらせたら何しようという無駄に考える時間ができてしまうのだ。


「今日はこのぐらいにするか……。何しよっかな〜。あれ? なんか忘れているような……。あ、そうだ! 絵本!」 


 あの日、帰ってから絵本を探すつもりだったが忘れていた。もっとも、絵本がまだあるかどうか分からない。


「夏休み暇だし、あの夢について調べるか。それにしても、絵本どこにしまったかな〜。そういえば、鍵付きの引き出しに大事なもの入れてたような」


 僕は鍵付きの棚の引き出しを開け、絵本があるかを探す。すると、一番下の奥にそれらしきものを見つけた。


「これかな」


 中身を見ると、あの夢の通りの物語だった。未だに誰がいたのかは分からない。けれど、幼稚園の時に僕は何を願ったというのだろう。心臓が弱く、入院することが多かった自分が望むこと。


「この心臓を治してください。か……。治ってないけど。もしくは……。この物語を見ると、亡くなった女の子と同じ性別。5人の女の子を依り代にするなら、これって好きな子を生き返らせる方法だよな? いや、幼稚園の時だから、この方法でどんな願いも叶うと思っても不思議じゃないか。他の方法とかこの絵本には載ってないし。じゃあ、あの時の夢にでてきた5人の女の子はどうやって揃えたんだ? 光る星の色が確か、赤、黄、紫、緑、橙だっけ? 物語の通りならだけど」


 僕が小学生の頃、倒れて入院していた時に星に関する本も暇つぶしに母に頼んで持ってきてもらい、読んだことがある。しかし、紫や緑に光る星は基本的にはない筈なのだ。


「どうやって再現するっていうんだ? やっぱり名前かな? 名前に星か色が入ってる人。髪の色だと、絶対とは言えないけどいないような気がするし。そういえば、色といえばあの2人の名前……」


 そうあの2人、可愛星輝色かわぼしきいろ紅井茜あかいあかね。この2人にも、色が含まれているのだ。可愛星かわぼしさんは名前の方に、紅井あかいさんは名字の方に色が含まれている。これが偶然なのかどうかは分からない。


「けどま、僕が願うものが分かっただけでもいいかな。でも同じ幼稚園だったなら同じ学校で被るんじゃ? でもあの2人の姿を小学校、中学校でも見かけたことないしな〜。いや、まぁ僕が知らなかっただけかもしれないけど」


 余計な所で謎が深まる。しかし今日はこのぐらいにし、親と一緒に夜ご飯をとりあえず食べることにした。


「父さん今日も遅いの?」

「うん」

「あ、そういえば聞きたいことあるんだけど母さん」

「? 何?」

「僕が通ってた幼稚園ってどこだっけ?思い出せないんだけど」

「幼稚園? いきなりどうしたの?」

「ちょっと調べ物。気になることがあって」

「ふぅ〜ん。でも思い出せないって、普通名前ぐらい思い出すと思うけど。ていうか、ここの地域じゃないわよ。優心ゆうしんの通ってた幼稚園」

「え、どういうこと?」

「覚えてないの? この町に引っ越したでしょ? 幼稚園卒業した後」

「は、え? 嘘! てっきりずっとここで過ごしてきたと思ってたのに」

「病院行く事の方が多かったから、幼稚園の記憶が薄かったんでしょうねきっと。あなたが幼稚園児だった時覚えてる? 絵本読んであげたの」

「あ、いや〜、最近夢で見て思い出したかな〜? あはは」

「覚えてなかったなこいつ」

「あはは」

「あの絵本まだ残ってるの?」

「部屋で見つけたよ。小学校行ってた頃も読んでたし」

「そうだったわね。あの頃の優心ゆうしんは可愛かったのよ〜、あの絵本のように星に願いを叶えて貰うんだってね。でね、夜空の星見た時に白色や青色にしか見えなかったらしくて、もう依り代に移ってるかも! ってはしゃいでたの。確かその時、幼稚園の中に1人依り代見つけたよ! って言っててね。名前に色が入ってる女の子が依り代と思っちゃったようで、可愛かったな〜」

「それ本当?」

「ええ、幼稚園から病院に連れて行くときに先生に色のついた名前の女の子紹介してってわざわざ聞きに来たんですよ〜って言ってたから。で、聞いたらなんだかんだ仲良くなってたらしいわその5人と」

「全然記憶にない」

「最低ね」

「う……」

「そういえば、5人揃ったから星空にお願いしたいって言っててね。今まで入院してた時とか、家で寂しい思いしてるあんたを仕事のせいで一人にさせること多かったから、わがまま聞いてあげたの。「星空の下」っていう丘の公園にね、私が車出して」

「……」

「何を願ったのかな〜、心臓を治してかな?やっぱり」

「さぁ、過去の僕が何を望んだか分からないけど。僕もそう思うよ」


 僕の知らない過去の話と母の思いを初めて聞き、心の底から感謝したのだった。





























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る