第5話 紅井茜

 あたしは紅井茜あかいあかね。人とお喋りすることが好きで、部活動は女子サッカー部に所属している。最近は話したことのない夜色やしきや同じ男子サッカー部に入っている青島あおじま、そして転校生の可愛星かわぼしさんといる時が多い。


 可愛星かわぼしさんのことは転校して間もないから追々仲良くなりながら知っていくとして、2年生になっても知らない夜色やしき。彼のことは高校に入ってから一緒のクラスだった。けれど、話す機会は無かった。可愛星かわぼしさんの件で揉めてしまったけど、悪い奴じゃ無いことは自分自身が関わった時点で気づいた。けど、私は担任の先生が言っていたように心臓が弱いこと。そして、青島あおじまと仲がいいぐらいしかあたしは知らない。


 でも、高校入ってあの顔を見たときに、何かを思い出しそうだったことは覚えてる。気のせいだろうとあの時は片付けたけど、なんか大事な事だったような気がする。あの時食事に誘ったのは、話せばあの時の答えが出せるかもと思ったのが1つの理由だった。


「……」

「どうした? まだ少ししか食べてなさそうだけど……」

「え!? な、なんでもないわよ!」

「そう? 珍しく食が進んでないから体調悪いのかなと思って」


 今は学校の昼休みで昼食の時間。考え事をしている最中、いきなり夜色やしきに話しかけられて驚いたあたしは、考え事を後にすることにした。ていうか、あたしってそんな食いしん坊なイメージなの?


「いや、あたしだって考え事するよ?」

「いや、でもお腹空いた〜って言ってるとき食べるの早いよね?」

「……あーー」


 部活をしてるからかよくお腹が空くときが多く、つい空腹の時は言葉にせずにはいられないのだ。


「いや、あたしの事はどうでもいいのよ。夜色やしきのことが聞きたい」

「え? それって、どういう……」


 一緒に食べている夜色やしき青島あおじま、そして可愛星かわぼしさんまでもが箸を止める。


「あれ? どうし、は! 違ーーう! そういう意味じゃなくて! あんたとは1年の時も同じクラスメイトだったけど、何も知らないから気になるの!」


 まるで好きな人の情報が知りたいような言い方だったため、勘違いさせてしまったことを察したあたしは、急いで訂正する。


「なんだ、いきなりでびっくりしたよ。でも、いきなり言われてもな〜」

「でもま、ゆうは自分のことあまり話さないからな。紅井あかいはどんなことが聞きたいんだ?」


 青島あおじまの質問に、早速気になっていたことをさり気なく聞くことにする。


「じゃー小学生の時とか、もっと小さい時とか聞きたいんだけど〜」

「う〜ん、小学生の時は入院や病院に通うときが多かったからな〜。今は、定期的に病院言ってるけど、それよりも酷かった。あまり外で遊ぶ事がなかったというかできなかったな。それよりも前のことは、ごめん。覚えてないんだ」

「辛いこと聞いたね、ごめん。でもそうだよね〜、小さい時って思い出しにくいから」

「ごめんね。他にはもう無い?」

「う〜ん、じゃあその小学生の時は友達とは遊べず入院ばっかだったの?」

「ちゃんと登校できる時は学校行ってたよ。でも入院した時は、りょうがお見舞いにちょくちょく来てくれてたかな。それぐらい。あとは親としか会わなかったな」


 過去話を聞き悪い事をしたなと思ったけど、ずっと夜色やしきが1人では無かったことに安堵した。あたしだったらとても耐えられない。


 結局その後の話は、趣味や好きな食べ物と言った王道な質問しかできなかった。けれど、重い過去があったから今の夜色やしきがあるんだという事を知ることができた為、この時本当の友達になれた気がした。



☆☆☆


 

 学校が終わり家に帰った後、過去話をしたからか急に自身の過去を振り返りたくなる。自分の部屋に行き、ベッドの下に収納しているアルバムを取り出す。埃が少しついていたためティッシュで拭きながらベッドに横たわって眺める。


 そこには、幼稚園の時の写真が残っていた。


「懐かしいな〜、この時からやんちゃだったんだあたし。この子も元気かな〜」


 体を支える両腕が疲れ、寝返りをうつ。すると、1枚の写真がひらりと落ちてきた。


「? これも幼稚園の時の……。え……」


 そこには、知っている人物の顔によく似ている幼稚園児が映っていた。


「これって……夜色やしき?」





























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