第83話 精霊の灯火

木々の向こうに広がる暗闇そらを背景に、色とりどりの淡い輝きが舞い踊る。


空に夕闇ゆうやみが広がり始めた頃から、近くにいた精霊達が光をまとい周囲を飛び回るようになり、聖域このの空間を美しくいろどった。


俺達は食事を済ませると、き火から少し離れた場所で、幻想的な光景を眺めていた。

今、眺めているのは三人と一頭。

ゼーンの親父さんは俺達との話しを終えると、奥さんと他の子供達の元へと帰って行った。


「綺麗だよな。」

"うん。"

「こんなに沢山の精霊が飛び回る姿なんて、そう見られるもんじゃないな。」

「ただでさえ精霊を間近で見ることは滅多に無いんだ。ましてや夜なんて、冒険者か幸運な旅人ぐらいしか精霊の灯火ともしびを見る機会はないだろ。」


優しい光景になごみ、言葉を交わすところへ近づく気配がひとつ。


「どれ、私もしばし鑑賞の輪に入れてもらおう。」


そう言って人の姿をとった爺さんが隣に腰を下ろした。


「その声はトニトルス殿。」

「そのお姿が話しにあった人化というものですか。」


ジェミオとアルミーの二人が驚きの表情を浮かべながらも、目の前の人物が爺さんであると理解しそう言った。


「ああ、この姿は人化した時と同じだが、今のこの体は魔法で作り出した分体だ。」


爺さんはひとつ頷きながらそう答えた。


態々わざわざ魔法使って見に来なくても、普段から見慣れてるんじゃないのかよ?」

「普段はこれほど多くの精霊もの達が集まることは無い。」

「そうなのか?」

「精霊達もお前達が助かったことを喜んで浮かれておるのだ。」


俺の言葉に爺さんが苦笑してそう言う。

それを聞いた俺は、近くを飛んでいた光珠へそっと手を伸ばす。


光珠は驚いたのか一瞬距離をとったが、直ぐに近づいてきててのひらの上に下りた。


「いろいろとありがとな。」


そう感謝を伝えると光珠はくるくると回った後、ふわりと飛び上がった。

その様子を見上げていると、幾つかの光珠が傍に寄ってきたので同様に感謝の言葉をかけると、さっきと同じようにくるくると回って飛んで行く。


"ヴェルデって精霊にも大人気だね。"

「俺が爺さんの血縁だからだろ。」

「本当にお前は素直なんだか、そうでないのか…」


ゼーンとの会話に爺さんが溢すのを聞き流していると、ジェミオとアルミーが静かに立ち上がった。


「それじゃ、先に火の元へ戻るぞ。」

「俺は先に休ませて貰うよ。」

「ああ、もう少ししてから戻るよ。」


きびすを返す二人にそう答えると、視線を戻した。


そして暫くの間、会話も無く過ごしていると、気がつけばゼーンが眠っていた。

流石にまだ子供だ。疲れたんだろう。

そっとゼーンを撫でながら、爺さんに聞いた。


「なあ、爺さん。分体って本体からどの程度までなら離れられる?」

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