第80話 理解と立場

「またやった……。」


かくしたかった内心ないしんと、みずか吐露とろしてしまった失態しったいに、俺は熱くなった顔をかくすように頭をかかえた。


"オレ悪いことしちゃった?"


ゼーンがひざの上で不安気ふあんげに見上げてくる。


「あ、いや、怒ってる訳じゃない。ゼーンに悪気わるぎが無いことはわかってるよ。ただ、俺が思ってることや、感じてることを何でも皆に話すのは勘弁かんべんしてくれるか? ずかしかったり、場合によってはこまることになるからさ。」


俺は羞恥しゅうち一旦いったん置いて、ゼーンに話した。

今回の場合は俺が少し、いや、かなりずかしい思いをしただけだが、相手によっては本音ほんねがばれると問題やっかいになる場合ことだってあるんだ。無用むよう問題事やっかいごとけたいからな。


"……。うん、わかった。ずかしいとヴェルデがこまるんだよね。"

""「「ぶっ!」」""


俺の言葉に少し考え込んでいたゼーンがそう結論けつろんけて言った。

それを聞いてまわりから吹き出す声/念話こえが聞こえてきた。


「なっ、ちがっ…いや、ちがわないか。ああ、もうそれでいいや。うん、ゼーンそういう事なんで頼む。」


一瞬、否定しようとしたが、たのみの大方おおかたの理由がそれだったのと、ゼーンに納得してもらえるならとあきらめた。

何せ、俺達のまわりで大人おとな連中れんちゅうが肩をふるわせてるんだ。今更いまさら何を言っても無駄むだだろう。

それにドラゴン銀狼フェンリルが笑うのをこらえてぷるぷるとふるえてる姿を見せられて、威厳いげんとかあこがれとか何処どこ行ったんだって話だ。


「ああっ、もう笑いたきゃ笑えばいいだろっ! こらえてふるえてるやつかこまれてる方が地味じみこたえるわっ!」

""「「っ、あっはっはっは」」""


俺がいたたまれなくなりさけぶと、大人おとな連中れんちゅうが声を上げて笑い出した。

あ~結局けっきょくこうなるのか。

俺はだまってゼーンのやわらかな毛に顔をうずめた。


   ◇ ◇ ◇


「なあ、もういい加減かげんにしろよ。」


何時いつまでもおさまらない大人おとな連中れんちゅう発作ほっさに、俺の声が地をっていた。


「くっ、わ、悪い。」

「あ、ああ、そうだな、す、すまない。」


俺の目つきと声色こわいろにそろそろあぶないと感じたのか、ジェミオとアルミーがどうにか笑いをおさめて言った。


"くくっ、いやはや、本当にかしこい子だ。"


じいさんがゼーンに感嘆かんたん眼差まなざしを向けて言った。


"互いに良く理解しわかりあってるようで何より。"


笑いをおさめためたゼーンの親父おやじさんが幾分いくぶんうれしそうな声でうなずいた。


「本当に、ゼーンが良い理解者りかいしゃで良かったな。」


そう言ってジェミオが俺の頭の上のゼーンをでた。


「ゼーン、これからもヴェルデの事頼んだよ。」

"うん。"


アルミーもゼーンをでながら言った。


「なあ、何で俺の方が見てもらていで話すんだよ。」

"事実、散々さんざん助けられたからだろう。"


納得なっとくいかないと抗議こうぎすると、じいさんからあきれた念話こえ即答そくとうされた。


「どうせ俺は能力ちからの足りない未熟者みじゅくものだからな。………。分かった。俺が悪かった。だからゼーン、尻尾しっぽはげますのめてくれ。」


不貞腐ふてくされて答えたら、ゼーンがだまったまま尻尾しっぽで俺の頭をでてきた。

その様子ようすそそがれるあたたかな眼差まなざしはつらい。


はい、自分の立場を十二分じゅうにぶんに理解しました。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る