第79話 暴露

"ふむ、どうやら寝過ねすごさなかったようだな。"


唐突とうとつじいさんの声が脳裏のうりhびく。


「だから大丈夫だって言ったろ。」


そう答えながらじいさんがいるだろう方向へ首を回す。

その向いた視線の先にあったのは首をもたげた巨大なドラゴンの顔だった。


「おはようございます。トニトルス殿。」

「おはようございます。」

「ああ、おはよう。い朝だ。」


じいさんの念話こえはジェミオ達にも聞こえていたらしく、たがいに挨拶あいさつわしていた。


「…………。」


"どうした、そんな複雑ふくざつそうな顔をして。"


ドラゴンの顔を見上げたまま沈黙する俺に、じいさんが聞いた。

ジェミオとアルミーの視線がこちらに向いたのを感じる。


「……いや、何でもない。」


そう答えながらも、俺の視線はの姿に釘付くぎづけになっていた。自覚は無いが、じいさんの言う通りの表情を浮かべていたのだろう。

実際に一言では片付かない思いを抱いていた。


司祭様せんせいやリュネさんから昔語むかしがたりで聞いた存在。力と魔力と知性と生命力の全てを身に宿やどすこの世界の最強の種族。

時に知恵者ちえしゃ導者どうしゃ裁定者さいていしゃ守護者しゅごしゃ、そして破壊者はかいしゃとして語られていた。

その中でも最も強く、ほこり高く、慈悲じひ深いと言われたかの竜王。


昔、フィオと話した。いつか世界を旅することがあれば、その旅でドラゴンに出会うことが出来たなら、友誼ゆうぎを結びたいと。


そんなあこがれが目の前に存在する感動と、脳裏のうりに浮かぶ精神あの世界で共に過ごしたじいさんの姿。


あこがれた英雄えいゆうの正体が、実は馴染なじみの親父さんだったみたいな、うれしいような残念ざんねんなような、なんとも言いがた心境しんきょうだった。


"あはは、ヴェルデ、うれしいのに困ってる!"

「なっ、ゼーン! そんな事言わなくてもいいて!」


ゼーンに内心ないしん暴露ばくろされ、あわてて止めようとするが無駄むだだった。


「嬉しいのに困ってる? どういう意味だ?」


ゼーンの念話こえはしっかりと周りに聞こえていたらしく、ジェミオが不思議そうな顔をする。


「っ、大した事じゃないから気にしなくていい。」

"そうか、そうか。私に会えたのが嬉しかったか。"


話を無理矢理むりやり終わらせようとしたところで、爺さんがからからと笑いながら言った。


「っ、じいさんの事だなんて言ってないだろ!」

「ん? ヴェルデは血縁者けつえんしゃに会えて嬉しくないのか?」


気恥きはずかしさを誤魔化ごまかそうと声をあげると、アルミーが聞いてくる。


「っ、いやっ、別にそんなことは…。」

「俺達は良かったと喜んでたんだが、お前は違うのか?」


返事にまると、今度はジェミオが心配げな声音で言う。


"助命じょめいためとはいえ、其方そなたには悪いことをした。"


いつの間に来たのか、ゼーンの親父おやじさんまでがそう言いつのった。

爺さんと会わせたことが悪かったかのような話の流れに、申し訳なさを覚えた俺はまくし立てるように言った。


「っ、だからそうじゃないって! じいさんに会えてうれしかったし、あこがれてたドラゴンに会えて感動したんだ! でも、それが自分の身内みうちだと思うとなんか気恥きはずかしくて…って、あ…。」


気がついた時にはみずから思いの全てを口にしていた。


うわぁぁ、何言っちゃってんの俺!!

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