第78話 目覚め

まるで水の中をただうようなふわふわとした感覚で、自分の意識が徐々に覚醒かくせいしていくのがわかる。


目蓋まぶたうつ木漏こもれ日の明るさはまぶしすぎる事もなく、ただ今が日中であることを教えてくれた。


そっと目を開けるとぼやけた視界しかい次第しだい焦点しょうてんむすび、濃緑のうりょくの木々のこずえき通るような青い空が見えた。

れたものよりもい森の香りが感じられる。


「…生きてる。」


無意識むいしきにぽつりとこぼれた自分の声に、ようやく自分が目覚めたのだと実感した。


「「ヴェルデ!!」」


良く知った少しなつかしく感じる声が俺の名を呼びけ寄って来る気配けはいに、ゆっくりと上体じょうたいを起こす。


「目が覚めたのか! 身体からだの調子はどうだ? 俺たちがわかるか? 」

「良かった! 気分が悪かったりしないか?」


俺の目覚めに気付いたジェミオとアルミーはそばへ来ると、かがんで俺をのぞき込むようにして矢継やつばやに言った。


「ああ、大丈夫だ。ジェミオ、アルミー。気分も身体からだも問題ない。」


そう答えると二人は安堵あんどの息をいた。


「あのさ…! あ。」


二人に礼を言おうとしたその時、そばに空間のらぎを感じた。そして次の瞬間、腕の中にふわふわとしたぬくもりが現れる。


"ヴェルデ、待ってたよ! おはよう! お帰り!"

「ぅぶっ。」


転移で腕の中に飛び込んできたゼーンが、そう言って尻尾しっぽをぶんぶんとりながら俺の顔をめ回してきた。喜んでくれるのは嬉しいが、これでは返事も出来ない。

俺は仕方しかたなく、興奮こうふんしているゼーンを引きがした。


「っ、待て、ゼーン。解ったから。ちょっと舐めるのは止めろ。返事も出来ない。」

"ああ、ヴェルデごめん。嬉しくって。"


両脇を持たれてぶら下がった状態のゼーンは、変わらず尻尾しっぽり回しながらあやまった。

俺はゼーンをそっと下ろして感謝を告げる。


「いや、喜んでくれてるのはしっかり伝わったよ。おはよう、ゼーン。そしてただいま。精神の中むこうでは、随分ずいぶん助けてもらった。ありがとう。」

"うん。オレはヴェルデの相棒だからね。"


ゼーンが『当然!』と言わんばかりに目をかがやかせ、ふんすと鼻をらす。

その姿にいやされながら、わしゃわしゃとで回した。


「ああ、これからもたよりにさせてもらうよ。よろしくな。」

"まかせて! オレがんばるよ! オレの方こそよろしく!"

「お互いにすっかり馴染なじんでるんだな。」


俺達のり取りを見ていたジェミオが言った。


「まあね。これからずっと一緒なんだ。遠慮えんりょなんてらないだろ。」


俺はそう答えると、さっき言いかけた事をあらためて口にした。


「二人には心配かけたうえに、沢山たくさん助けてもらったみたいだな。感謝してる。ありがとう。」

「確かに心配とやはしたがな。お前が助かったならそれでいい。」

「今回みたいなのは、二度目は遠慮えんりょしたいけどな。」


俺が頭を下げると、二人は俺の頭をわしゃわしゃとで回した。

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