第72話  本当の事 (side アルミー)

俺達は明日の朝一でヴェルデを迎えに戻る事を連中みんなに告げ、フィオをともないギルドを出た。


薬屋へ向かう道すがら、フィオに双子の様子をく。


「フィオ、ミニスとミオスが助かったとは聞いてるが、今の二人の容態ようだいはどうなんだ?」

「あいつらならもう大丈夫。魔力の流れに異常は無いし、熱も今日の明け方にはすっかり下がったって。」


返って来た答えに俺達は安堵あんどした。


「そうか。ヴェルデが聞いたら喜ぶな。」

「………。」


良かったとこぼすジェミオの横で、フィオはだまったままうつむいた。


「どうしたんだ、フィオ?」


様子が気になり声を掛けると、フィオは顔を上げ言った。


「二人とも、本当の状況ことを教えてくれ。」

「…どういう意味だ?」

「ヴェルデに何かあったんだろ?」


いぶかに聞き返したジェミオに、フィオは言った。


「ヴェルが無事でいて、俺に何の伝言も無しに返ってこないなんてあり得ない。ならヴェルに何かあったのは間違いない。二人が一緒にいて、それでもヴェルが帰れない何かが起きたってことだろ。あいつに何が起きてる? 頼む、教えてくれ。」


ヴェルデとよくぐな眼差まなざしが、やがてすがるようなものに変わっていった。

この様子では、誤魔化ごまかしも沈黙ちんもくかないだろう。

下手へたあつかえばひとりで森に向かいかねない。


ジェミオを見ると、しょうがないといった表情を浮かべて視線を投げてきた。

俺がうなずくのを見て、ジェミオはフィオに向き直り言った。


「分かった。消耗品しょうもうひん補充ほじゅうの後、宿に戻ったら話してやる。半刻はんこく程度ていどで終わるだろうから、後で俺の宿に来い。」

「いや、何も予定は無いから一緒に行くよ。」

「…そうか、じゃあさっさと行くぞ。」


間髪かんぱつ入れずに答えたフィオをれ、必要な買い物を一通り済ませてジェミオの定宿じょうやどへ向かった。


   ◇ ◇ ◇


「…とまあ、そういうわけでヴェルデのやつ銀狼フェンリルもと覚醒かくせいの眠りにいてる。」

銀狼フェンリルいわく、身体からだの変化と魔力が落ち着けば、じきに目をますそうだ。」

「……。」


宿のジェミオの部屋で結界を張ってから、フィオに森での出来事を竜王トニトルスと死にかけた事をはぶいて血の覚醒かくせい従魔契約じゅうまけいやく、そして眠りの事を伝えた。


流石さすが予想外よそうがいだったのかフィオはほうけた様子で沈黙ちんもくした。

俺達はだまってフィオの反応を待った。


「…、…、ヴェルの奴、血の覚醒かくせい従魔契約じゅうまけいやくとか、森を調べに行って何でそんなことになる? やらかすにもほどがあんだろ。」


やがてフィオの口からこぼれたのはあきれ返った言葉だった。

まあ、本人が意図いとしていないとはいえ、結果としてそう言われてしまうのは仕方しかたがないだろう。


「まあ、ヴェルデにとっても予想外の事態じたいだ。そう言うな。」


苦笑くしょうしたジェミオが言うと、フィオは首を横に振った。


「ヴェルの魔力認識まりょくにんしきの高さは二人も知ってるだろう? 本来ほんらいのあいつなら、自分の魔力に変調へんちょうがあればぐに気付けたはずなんだ。でも森に向かった時からヴェルの様子はおかしかった。ヴェルの事だから、考え事に意識が向きすぎて身体からだに影響が出るまで気付かなかったんだ。」


確信かくしんを持って言い切るフィオに、俺もジェミオも舌を巻いた。


確かに森へ向かった時点ですでにヴェルデは予言の言葉に思いめていた。そして精神的に余裕の無い状況から一転、自虐的じぎゃくてきな思い込みを指摘してきされ羞恥しゅうち悶々もんもんとしていたあの状況で、自身の変調に気付かないのも当然と言える状況だった。


だが、その辺りの話しは一切していないにも関わらず、正確に状況を言い当てたフィオに

流石さすが相棒あいぼうと呼ばれる幼馴染おさななじみだ』と感心してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る