第73話 鍛練再び

自分の全力を体感、危険度を目の当たりにした後、竜王のじいさんの鍛練たんれんが始まった。

が、その内容はまたしても「何処どこ鍛練たんれんだ!?」ときたくなるような、実戦あるのみというものだった。


向けられる攻撃をかわし、いなし、えながら、魔力を乱さずに一撃を入れるだけ。

自身の魔力を制御したまま攻撃が当たれば、鍛練たんれん終了。


言葉にするのは簡単だが、それをすのは困難こんなんでしかない。

多種多彩たしゅたさいな魔法、斬撃ざんげき体術たいじゅつのどれもがするどく、重く、苛烈かれつなもので、しのごうとしても容易よういにはさせてもらえない。


「何でドラゴンが剣術や体術を使えんだよ! 反則だろう!?」

「なに、昔、竜王になるよりも前にこの姿で世界をめぐっておった時に興味を持ってな。当時知り合った『剣聖』や『拳聖』の連中から手解てほどきを受けたのだ。」


最初の方で、納得がいかないと不満を訴えると、そんな答えが返ってきた。


「人型の姿の時には重宝ちょうほうしてな。連中が代替だいがわりするなか、何度かたずねて行っては剣やこぶしを交えたものよ。」


そう言って懐かしそうに笑うじいさんを半眼はんがんで見る。

なにか? 趣味で人族の最強、そのお歴々れきれきの指導を受け、すいきわめた技の数々が振るわれてると?


「ふざけんな! んなもん何度もらったら本気で死ぬわ!」


思わず怒鳴どなった俺は悪くない。


「だから死なぬようにしょしてみろと言っておるのだ。大体だいたい手加減てかげんしてはいざという時の制御など身に付かんだろう。」

「物には限度ってもんがあるだろう!? 常識的に考えろ!」

「お前…、私やお前の存在が『常識的』だなんぞと思うのか? かたや歴史の一片ひとかけらかたや突然変異に近い先祖返せんぞがえり。何を持って常識をうたうのか。我らが『常識』であるなら、このような鍛練たんれんなどしておらんわ、たわけ。」

「……。」


飄々ひょうひょうと返すじいさんに常識をぶつけたら、痛烈つうれつ皮肉ひにくと現実をもって打ち返された。


ちくしょう。


   ◇ ◇ ◇


そんなやり取りをはさみつつ、何度もずた襤褸ぼろにされて、地に転がっては限界に意識を飛ばすこと…たくさん。


もう仕切り直した回数も、体感時間の経過も意識に上らなくなった頃。

偶然崩れた態勢からの一撃が、じいさんの腕をかすめた。


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