第71話 重要な任務

リェフの言葉に周りの連中が同調し、あちこちから「俺も」と声が上がり一気に騒がしくなった。


「なんで戻ったのがお前らだけなんだ? ヴェルデに何があった?」


俺達をにらみ付けながら問うリェフの言葉にざわめきが沈黙ちんもくに変わる。誰もが気になっていて、口に出来なかった問い。

現状だけを見れば最悪しか浮かばないのも仕方ない。逆の立場であれば俺も同じ様な行動に出ただろうしな。


苦笑が浮かびそうになるのをこらえ、話しをしようとしたその時、入り口へ飛び込むようにしてフィオが駆け込んできた。


「っ、ヴェルが戻ってないって本当か!?」


乱れた呼吸を整えるよりも先に問いかける。

そして場にいる面々を見渡して俺とアルミーに気付くと、駆け寄りつかみ掛かってきた。


「何でヴェルがいないんだ!? ヴェルに何があったんだよ!?」

「!」

「何とか言ったら「そこまでだ。」」


普段のフィオの様子からははなれた剣幕けんまくに、一瞬反応が遅れた。そのを言いよどんだと感じたのか、さらろうとしたフィオをギルド長ギルマスの声が止めた。


「フィオ、その手を離せ。」

「でも!」

「フィオ、落ち着け。大丈夫だ。あいつは生きてる。」

「えっ…。」


ギルド長ギルマスの再びの制止せいしに続けた俺の言葉で、フィオがその動きを止めた。


「…ヴェルが生きてる…。」

「ああ、ヴェルデは生きてる。」


アルミーも肯定こうていすると、フィオの手はゆるみゆっくりと下ろされた。

そして正しく言葉の意味を理解したところで、落ち着いたいつもの眼差まなざしが戻った。

フィオとのやり取りをだまってみていた周りの連中も安堵あんどの表情を浮かべていた。


「ジェミオ、ごめん。俺、ヴェルが戻ってきてないって聞いて…。」

「大丈夫だ。わかってる。気にするな。」


うつむき謝罪を口にするフィオの頭をわしわしとでてやった。


「それで、ヴェルデの奴が生きてるってのは分かったが、何であいつは戻ってこないんだ?」


流れが一段落したと見たリェフが改めていてきた。


「ヴェルデには重要な役目を任せてるところだ。」

「重要な役目って?」


何故なぜ勿体もったいぶった物言ものいいのギルド長ギルマスに、フィオがく。

周りの連中もヴェルデが生きてると分かった途端とたん興味津々きょうみしんしんといった様子で注視ちゅうししている。


「ヴェルデには銀狼フェンリルの子の相手をしてもらっている。」

「えっ、それって…。」

よう子守こもりだ。」


ギルド長ギルマスあらたまった言い方をして、フィオがまさかといった表情を浮かべたところで、ぶっちゃけてやった。


「「「「「… … …」」」」」


「くっ、ははっ。こ、子守こもりって…」


静まり返った中、リェフが吹き出し腹をかかえてふるえている。

次の瞬間しゅんかんにはギルドの中は笑い声に包まれた。


銀狼フェンリルの子を十字蜘蛛クロススパイダーから助けたことでずいぶんと気に入られたようで、しばらく相手をすることになったんだ。」

「くくっ。そういうことか。あいつらしいな。」


アルミーがくわしく話すと、今だ笑いの治まらないリェフが得心とくしんした様子で言った。


「何だよ。それならそうと先に言ってくれたら良かっただろ?」

「その話しをしようとしてたところで、お前が駆け込んできたんだろうが。」

「いや、だって、それは…。し、仕方ないだろ。ヴェルがまた無茶やらかしたのかと思ったんだ。」


愚痴ぐちこぼすフィオに話しを中座ちゅうざさせたのはお前だと告げると、反応に困る言葉が返ってきた。


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