第70話 制約

話しを終えギルド長ギルマス階下したに下りると、普段なら騒がしい場は重苦おもくるしい空気に包まれていた。


俺達が下りてきたことに気付いた数名がこちらを見ると、それにならうように他の者達もこちらへと視線を向けた。


その表情はどれもいきどおったような、またはえるような表情をしており、中には今にも泣き出すのではないかといった者までいる。

だが誰も何も言わず、ギルド長ギルマスが話すのを待っていた。


「皆聞け。調査から戻った二人から報告を受けた。わかったことを伝える。まず、森の異常の原因だが、これは銀狼フェンリルが住み着いた事によるものだった。」


銀狼フェンリルと聞いて皆に緊張が走り、場がざわめく。

当たり前だ。昔語りで語られる強大な力を持つ魔獸まじゅう、その存在は現在においてもたしだと言われるが、一生会うことの無いだろう存在。

驚き、不安に思う皆の反応は至極しごく当然とうぜんのことだと言える。それなのにあの義弟ヴェルデは…。

ヴェルデと銀狼フェンリルの会話を思いだし、思わず明後日あさっての方へと視線を投げた。


「落ち着け!!」


ギルド長ギルマス一喝いっかつで、場は一瞬で静まり返る。


「大丈夫だ。こちらから手を出さない限り、襲われることはない。」

ギルド長ギルマス、なんでそう言い切れる? 根拠こんきょはあるのか?」


告げるギルド長ギルマスに、上級者ランカーの一人が疑問を投げ掛ける。


「それは銀狼フェンリルに会ったこいつらが交渉こうしょうした結果だ。」


ギルド長ギルマスはそう言って俺達へと一瞬だけ視線を向けた。

場は再びの驚愕きょうがくに包まれる。

だが、ギルド長ギルマスはそれを無視して話しを続けた。


銀狼フェンリルつがいでガルブの森で子を産んだらしい。幼体こどもが育つまでは移動はないだろう。そこでギルドとしてガルブの森について新たな制約せいやくを設ける。」


それを聞いた皆は真剣な表情になる。


銀狼フェンリルとその幼体こどもに対しての一切いっさいの手出しを禁止する。したがわず手を出した者は冒険者ギルド資格を剥奪はくだつ、関係する情報を口外できないよう誓文せいもんきざむ。 また、町を危険にさらした犯罪者としてさばかれることを覚えておけ。」

「この町の冒険者でかなわないとわかってる相手に襲撃しゅうげきけるような馬鹿はいないぜ。」

「何より町を危険にさらすような恩知らずは、俺達が許さねえ。」


制約せいやく内容を聞いた上級者ランカー達から返ってくる言葉とあいづちを打つ冒険者達れんちゅうギルド長ギルマスが肩の力を抜いたときだった。


「…だが、事と次第しだいによっちゃ話は別だ。もし銀狼フェンリルがあいつを、ヴェルデをったって言うなら、俺はなんと言われようと銀狼フェンリルやつを許さねえ。」


さっき疑問を投げ掛けた上級者ランカー、リェフが俺達にする眼差まなざしを向けた。

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