第67話 小芝居

気が付くと仰向あおむけにに倒れていた。

何がどうなってる?


「……、うっ、……っつ、ぐぅ。」


起き上がろうとして、身体からだの痛みにうめく。

特に右足がひどく痛んだ。

そうだ、この足はさっき魔力弾まりょくだんに当たって…その後、向けられた強大な魔力まりょくに対し、無我夢中まがむちゅうつむいだ魔力まりょくをぶつけたんだ。


「結果、ここまでっ飛ばされたと。」


そう口にして『治癒セラベヴォ』をとなえつつ周囲しゅうい見回みまわすと、はるはなれたところで魔力の残滓ざんしがバチバチとはじけているのが見えた。


「え、あそこから飛ばされてここって…つっ」


衝撃しょうげきすさまじさに加え、直前ちょくぜんに向けられた死を思わせた魔力弾まりょくだんの魔力を思い出す。そして無我夢中むがむちゅうだったとはいえ相殺そうさいするだけの魔力を放った事に気付きぶるりとふるえた。


「これが今のお前の全力だ。お前が制御出来なければあの力は暴走する。おのれの力がいかに危険かわかっただろう。」


気が付けばそばドラゴンが立って俺を見下みおろしていた。

そうだ、俺は先祖の竜このひとに殺されそうになってたんだっけ。確かにいつ暴走するかわかんないなら今の内にって考えがあるのもわかってる。それでも、もう魔力がほどんど残ってないけど、最後の最後まで俺らしくあらがってやる。


「では、回復が終わったら鍛練たんれんを始めるぞ。」

「へ?」


俺があらがう気になった途端とたん、思いがけない言葉が聞こえた。


「え? 何を始めるって…?」

鍛練たんれんを始めると言ったのだ。聞いていなかったのか?」

「は? え? 俺を見限みかぎったから始末しまつしようとしてたんじゃないのか?」


困惑こんわくしながら問うとドラゴンはニヤリと悪そうな表情を浮かべた。


「あれはお前の全力をわからせるための小芝居こしばいだ。命のかった状況じょうきょうでなければ、本当の全力など出せんだろう? 大体だいたい庇護者ひごしゃに助けられた孫同然まごどうぜん血族けつぞくを簡単に死なせるわけがなかろう。」

「なっ…。」


そういえば始末しまつされるってなったのに、最後の攻撃以外は俺がさばける程度ていど威力いりょくだった。

おかしいって気付けよ俺。

いや、それより。


「教えることは出来ないって言ったのあんただろう。なのに鍛練たんれんって言ってること矛盾むじゅんしてないか?」

「何も矛盾むじゅんなどしておらんよ。私は教えるのは無理だと言ったのだ。制御せいぎょの感覚など自身じしんにしか分からぬ。まして全力の攻撃など、いくら予測よそくしていても実際じっさいってみねば分からなくて当たり前だろう。実際じっさいった感覚を基礎きそに、制御せいぎょきたえる他に方法など無いわ。」


うたがいの眼差まなざしで言うと、ドラゴンわるびれもせずに答えた。


「それじゃ…。」

「そうなるように仕向しむけたとはいえ、お前の一人鬪舞ひとりとうぶだな。だいたい私は初めからきたえてやると言っていただろう。」


愕然がくぜんとする俺を見て、あからさまに面白おもしろがった様子のドラゴン脱力だつりょくする。


「まあ、私がしっかりきたえてやるから安心しろ。そうだな『お祖父様じいさまお願いします。』とたのむなら少しは手加減てかげんしてやるぞ。」


見た目が中年ちゅうねんの、三千歳さんぜんさいえのドラゴンのたまう。

俺は力一杯ちからいっぱいさけんだ。


「誰が言うか性悪祖父しょうわるじじい!!」


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