第66話 憂いを絶つ

「教えることは出来ん。」


頭上からの答えに身体が一瞬硬直こうちょくする。

俺は頭を下げたままもう一度頼んだ。


「お願いします! 俺に制御の方法を教えてください!」

「無理だ。」


にべもなく返された言葉に思わず頭を上げる。

ドラゴンは真っ直ぐ俺を見ていた。


「どうして!?」

「出来ぬものは出来ぬ、それだけだ。」


突然の取り付く島もない様子に戸惑とまどい、制御が乱れる。


「見ろ。そのようなさまでは、完全な制御など到底とうてい無理な話だ。」


あざけるように言われ、感情がたかぶり魔力がふくれ上がる。

きたえてやるなんて言っておきながら、手のひらを返した態度に、苛立いらだちのような感情が強く、戸惑とまどいをつぶす。


「ほう、一応は押さえたか。だがこの程度で乱れるようでは話にならんな。所詮しょせんかえったばかりの赤子と同じか。」


ドラゴンはやれやれといった様子で首をふるる。


「赤ん坊だって、成長して歩くようになるんだよ!」


さらにいらつく感情と魔力を無理矢理押さえ込むが、わずかにれた。


「大口をたたいてもその程度。聞いてあきれるわ。」


鼻で笑う態度に逆撫さかなでされ、魔力がさらに乱れる。

…もういい、あんたなんて当てにしない。


「うるさい! そんなに気に入らないなら見なきゃいいだろ! 俺の精神なかからとっとと出てけよ!」

「言っただろう、制御を完全にするまでは、お前をくと。今すぐ出ていけと言うならば、うれいをつ為に、お前には消えてもらおう。」


ドラゴンはそう言って、魔灯射まとうちの時の倍程ばいほどの数の魔力弾まりょくだんを浮かべ、放った。


「くそっ! 結局けっきょくこうなるのかよ!!」


その場を飛び退くと同時に、相殺そうさいするための魔力弾まりょくだんを打ち出すが、俺の魔力弾まりょくだん威力いりょくが弱く、一対一では相殺そうさいしきれない。


走り回り、ぎりぎりで避けながら、追加の魔力弾まりょくだん生成せいせいするが、める魔力を増やしながらの作業に若干じゃっかん手間取てまどってしまう。


「ぐわっ!」


回避かいひそこねた一発が右足に当たり、衝撃しょうげきで大きく吹き飛ばされた。


「あ゛っっ…、ぐっ、ぐぅっ。」


転がった先で反射的はんしゃてきに起き上がろうとするが、足の骨が折れたらしく激痛げきつうおそわれた。

痛みで完全に動きの止まった俺に対し、ドラゴンは冷たく言い放った。


血族けつぞくはじを世に出すわけにはいかぬ。これで終わりにしてやろう。うらむならおのれぎょせぬ自身じしんうらむがいい。」


言い終わると、俺の頭よりも大きな魔力弾を作り出した。


「っ!」


俺は魔力弾まりょくだんに込められた魔力を感じ、背筋せすじに冷たい汗が流れる。

あれをまともに食らえば、俺は間違いなく消し飛ぶ。


精神こころが消滅したなら、二度と目覚めることはない。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


俺は全ての感情と魔力を一つにして放った。


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