第64話 余裕

そう、俺はギルド長ギルマスから依頼を受けて、異変の調査に来たんだよ。ゼーンの親父さんに会ってやっと原因が竜の魔力だって判ったところだったのに、突然血の覚醒が始まったせいで俺は勿論もちろん、ジェミオやアルミーまで足止めされて…。


って、竜の魔力!?


「そうだ! 森に広がった魔力の持ち主って!」

「ああ、私の魔力ものだったようだな。」


こっちは大暴走じたいを回避したいと必死なのに他人事ひとごとのように返すドラゴンの様子に先程までとは別の苛立いらだちがいた。


他人事ひとごとみたいに言うな!!」


声を荒げた瞬間、制御していた魔力が怒りにあおられるようにれ出す。そしてその事を理解していながらも、感情のたかぶりにまかせ言葉をき出した。


「その魔力のせいで大暴走スタンピードが起きるかもしれないんだぞ!! 大暴走スタンピードなんてドラゴン銀狼フェンリルにとっちゃ大事おおごとでも何でも無いんだろうさ。でも俺達や町の皆にとっては死の宣告にも等しいんだよ!! なのにその発端ほったんになりかねないことやっときながら、無責任な態度取ってるんじゃねえよ!!」

「!、…。」


言い放って振り上げた拳を、ドラゴンけなかった。

力一杯なぐったにも関わらず、たたらをむでもなく、傷らしいものも無い顔をこちらに向け、ドラゴンは言った。


「確かに此度こたび危機ききを呼んだのは私の落ち度だ。ましては事態の収拾しゅしゅうすら自身ではなにもしておらん。」

なぐられたのは謝罪のつもりかよ。」


俺がにらみ付けるように言うと、静かな眼差まなざしをしたドラゴンは言葉を続けた。


「謝罪の思いが無いとは言わんが、けなかったのは事態をおさめたお前への礼だ。」

「俺が事態をおさめた? 一体どう言うことだよ?」


言われた内容に心当たりはなく、何の事かと聞く。


「お前が意識を失くしている最中さなかに、お前の持つ剣がその身に宿やどる守護の力で、森に広がった魔力を大地へとかえしたのだ。」

「…そうか、あの剣が…。やっぱりとんでもない代物しろものだったな。」


脳裏のうり漆黒しっこくさやに包まれた、白銀の剣が浮かぶ。

意識の無い状態で起こった事など、心当こころあたりなどあるわけが無かった。

そしてもたらされた話の中で考えるべき事は別にある。


「…剣が魔力を大地にかえ事態じたいおさめたって言ったよな。ということは大暴走スタンピードの危険は無くなった、そう理解して良いんだよな?」

「そうだ。」


念を押すように確認すると、はっきりとした肯定こうていが返ってきた。


危機が回避出来たことに、じわじわと全身に安堵あんどが広がる。そして落ち着いて考えられるようになったことに気づく。


前にジェミオとアルミーに言われたばかりだというのに、俺はまた周りを気にする余裕を無くしていたらしい。それどころか、苛立いらだちのままになぐってしまった。二人が知ったらあきれるだろうな…。


俺は若干じゃっかんの気まずさを感じながら、ドラゴンへと頭を下げた。


「さっきはなぐってごめ、っ、すみません。」


ふっ、と対面のドラゴンから吹き出すような声がれた。


「普段の話し方で構わんよ。そして謝罪もいらん。言っただろう、あれを受けたのは礼だと。」


俺は頭を上げると、ドラゴンを見て礼を言った。


「わかった。こちらこそありがとう。あと頼みたいことがあるんだ。いいかな?」

「なんだ?」


ドラゴンは俺のあらたまった物言ものいいに、怪訝けげんそうな顔をした。


「今の現実での状況を教えて欲しい。」


俺はそう望みをげた。

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