第63話 魔灯射ち

左肩をかすめた的がはじける。


「っつ……くそ!」


もうかぞえるのも面倒めんどうな程にくらった、小さな雷による痛みとしびれは耐性たいせいでも付いたのか、単に慣れただけか判らないが、身体への負担は然程さほど無くなっていた。


だが、痛いものは痛い。

そして必要な鍛練こととはいえ、心労ストレスであることには変わらない。


「ったく、何時までやってりゃいいんだよ、っと。」


初めてからどのくらいったのか。

始めは十個だけだった俺の周りに浮かぶ魔力の的は、今では百個程にまで増えている。


元々時間の感覚が曖昧あいまい精神このの空間で、あの人の姿を取ったドラゴンによって始められた『鍛練たんれん』という名の拷問ごうもんにも等しい『魔灯射まとうち』は、射ち消してゆくほどに残った的は速度を上げ、動きが複雑になっていった。そして気がつけば新たな的が現れ徐々に数を増して周囲を飛び回る。


そんな無限湧むげんわきを続ける的は、俺の魔力が枯渇こかつするまで延々えんえんと俺を追い回す。


魔力が枯渇こかつ直前までになると的は消え、回復を終えると消える直前の数で現れ、強制的に再開させられる。『鍛練』である以上、命の保証はされているが、終わりの見えない作業は苦痛だ。


最初の枯渇こかつで的が消えたとき、終わったと思い喜んだ後の強制再開の衝撃といったら…あのドラゴンがいたら助けてくれた相手だとしても、間違いなく悪態あくたいをついていた。いや、今現れたとしてもそうなるのは間違いない。


だが文句をぶつける相手はらず、独り愚痴ぐちこぼしながら的を射ち消す事を続けた。


 ◇ ◇ ◇


さらに時間が経過し、俺は周囲の的を複数同時に射ち消したり、身体強化を使って自ら距離をめて直近ちょっきんから射ち消したり出来るようになった。


真面目に取り組んだ…というわけではなく、増えるばかりで一向いっこうに減らない的にいらついて、少しばかり暴れた結果だったりする。


そうして増える速度を、射ち消す速度が上回ったことで、数を減らせるようになり、ようやくあと十個、最初の数へ戻し終わりが見えた時だった。


「!!」


背後に現れた知った気配に、反射的に魔力いらだちはなつ。


「ほう、この短時間でここまで出来るようになったか。反射はんしゃ感性センスは悪くないらしい。」


振り返ると人の姿をしたドラゴンが再び立っていた。


「一体何時迄いつまでやらせるつもりだよ!」

勿論もちろん、魔力を完全に制御できるまでだ。それより、私にみついていて良いのか?」


俺は声を荒げまった心労ストレス苛立いらだちをぶつけた。

だが当のドラゴンは何の事はないといった様子で返す言葉の最後で、俺の背後を見て目を細めた。


残した的が近づいているのは解っている。散々相手にしてきたんだ、その存在を一瞬といえ忘れるわけがない。


「んなことは、言われなくても分かってるんだよ!」


俺は半身を背後へ返し、残った的をまとめて射ち消した。

そうして向き直り、ドラゴンへとつかかった。


「俺は森の異変の調査に来たんだ、ジェミオやアルミーを巻き込んで、皆を不安にさせたまま、こんな所で何日も寝てるわけにはいかないんだよ!」


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