第62話 帰路 (side ジェミオ)

俺とアルミーは、馬をり町への帰路きろを急いでいた。

森の異変が収まったことと、今後についての事を早急にギルド長へ報告するためだ。


あの後俺達は、子銀狼こフェンリルのゼーンから精神の空間での様子を聞き、ヴェルデが子銀狼ゼーンの力を借りつつ、持てる力と精神力で命を掴んだのだと知った。


子銀狼ゼーンが尻尾を振りながら、ヴェルデの頑張りをほこらしげに語る様子に、場はなごやかな雰囲気ふんいきに包まれた。


そして今後について互いの要望をつき合わせた。

竜王トニトルスは俺達一部の者を除いて、今まで同様どうように場と存在を秘匿ひとくすること。

銀狼フェンリルは森で子銀狼こども達を育てながら、奥方の回復を待つこと。

俺達は生活をになう森への出入りと、町の安全をはかること。


互いの要望を出し合った後の話しには、然程さほどの時間もかからなかった。

竜王トニトルスと聖域については、銀狼フェンリルは言うまでもなく、俺達としてもおおやけにすべきでは無いと考えていたからだ。


銀狼フェンリル一家の事にしても、状況からして長期に渡り住み着くことは確定だが、従魔契約の事で友誼ゆうぎと呼べる程度の信頼関係はきずけただろう。

森へ狩りや採取に来た人族に遭遇した際も、何らかの敵意もしくは危害がない限りは攻撃はしないとの言質げんちもらった。


そして今回の出来事については、ギルド長キルマスと信頼のおける一部の者へは真実をありのまま伝えるが、対外的には銀狼フェンリルが森に住み着いたことによる影響だったという話しに落ち着くこととなった。


色々とあったが、今後、銀狼フェンリル一家がいる間に森に何か異常があれば、知らせてもらえることになったのは何よりの収穫しゅうかくだろう。


一通りの摺合すりあわせが終わったところで、問題となっていた帰還きかんと再訪問について、銀狼フェンリルうかがいをたてた。


“うむ。御方おんかた御許おゆるしがあるというなら構わぬ。われ其方そのほう達を連れよう。”

「あの、こちらからお願いをしていることですが、その…よろしいのですか?」


あまりにあっさりと承諾しょうだくされ、言葉を失くす俺に代わって、思わずといった様子でアルミーが確認を取った。


“ん? 其方達そなたらは人里の者達へ事が収まったことを告げにいくのであろう? の者が目覚めるまでは通わねばならぬのだ。助力じょりょくもやぶさかではない。何より我が子のあるじとなった者であるなら、我が力を貸すのもそうおかしな事でもなかろう。”


さも当然とうぜんとばかりに返された内容に、義弟ヴェルデの強運が脳裏に浮かび、アルミーと二人して苦笑した。


そんな経緯けいいで取りえず帰還きかんをすることになった俺達は、馬達が夜営場所の近くに無事でいることを精霊達から銀狼フェンリル経由で聞き、その場へと転移で送り届けて貰った。


そうして俺達は報告の帰路きろいた。

ヴェルデの馬ももちろん一緒だ。

最初は一緒に行くことを嫌がったんだが、ヴェルデが戻るまでしばらくかかることを告げると、大人しく付いてくるようになった。

この馬もうちの義弟おとうとが気に入ったらしい。


あれこれと思い返している内に、町を囲む外壁と門が見えてくる。

さあ、帰ったらとっととギルド長ギルマス達へ報告を済ませて、双子の容態ようだいを確認したら義弟あいつの所へ戻るかね。

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