第60話 事態の収拾 (side ジェミオ)

今回の魔力の拡散は、この場の結界の一部をゆるめた際に、まっていた魔力がれ出したものだった。だがその魔力も大地にかえされていて大暴走の危険は無い。

竜王トニトルスはそう説明してくれた。


「不慮の出来事とは云え、すでに対処いただき、安堵あんどしました。ありがとうございます。」

“いや、対処したのは私ではない。ゆえに感謝の言葉は受けとれぬ。”


大暴走スタンピードの危険だけでなく、原因自体が無くなっていることに肩の荷が下り、事態じたい収拾しゅうしゅうに感謝を伝えると、否定の言葉が返ってきた。


竜王トニトルス自身でないとするなら、では一体誰が…。そう考え、銀狼フェンリルへと自然に視線が向いた。


われ御方おんかた御力おちからぎょせる訳がなかろう。”


そうって、銀狼フェンリルあきれた眼差まなしを返された。

なおも疑問を浮かべる俺達に、竜王トニトルスは答えを示した。


“それをしたのは血族このものの持つ剣だ。宿やどる守護の力により、漂う魔力を大地の守護の力へと還したのだ。”


そうわれ、ヴェルデのかたわらにある剣を見る。

あの時の鈴の音でそんな事までしてしまうとは、一体どれ程の力を秘めているのか。そう思っていた時だった。

ヴェルデと共に眠っていた子銀狼こフェンリルの耳がぴくりと動いた。


“どうやら幼子が目を覚ました様だ。”


竜王トニトルスの言葉を聞きながら、子銀狼こフェンリルの様子を見つめていると、ゆっくりとまぶたが開いた。


目を覚ました子銀狼こフェンリルは起き上がり、ヴェルデのほお一舐ひとなめすると、かごから飛び降り大きく伸びをした。


“!…。”


無言のまま大きく尻尾を振る銀狼フェンリルから喜びの感情が伝わってくる。

子銀狼こフェンリル銀狼フェンリル数瞬すうしゅん向かい合ったあと、こちらを向いて座り直した。

何かあるのかと見つめているとその声が届いた。


“あのね、みんなのおかげで助かったよ。”

「ヴェルデが言ったのかな?」


甲高かんだかい子供の声に、アルミーが子銀狼こフェンリルへと問いかけた。


“うん。あともう少し掛かるけど大丈夫だって伝えてって。”

「そうか。…ありがとう、ヴェルデを助けてくれて。」

「俺からも礼を。大切な義弟を助けてくれてありがとう。」


俺とアルミーは、ヴェルデの言葉を伝えてくれる子銀狼こフェンリルへ、従魔契約を結んでまで助けてくれた事への感謝を伝えた。

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