第58話  問題点 (side ジェミオ)

真の聖域とも言うべき竜王トニトルスるこの場所は、一定の明るさが保たれ、まるで時間が停止したような雰囲気ふんいきだが、見上げれば木々に囲まれた空が明るくなっていた。


起きてきたアルミーと朝食をとり、予定していた調査の帰還日である今日をどうするかを相談する。


「さて、今日戻る予定にしていたがどうする?」

「俺はこの後の話し合いの結論が出るなら、一度戻るべきだと思う。フィオの伝言でギルド長ギルマス達も心配してるだろうしな。」


聞いた俺にアルミーは帰還きかんする方が良いという。

俺はうなずいて言った。


「俺も同じ考えだ。結論の如何いかんに関わらず、状況を伝えに戻った方が良いだろ。ヴェルデがいつ目覚めるかも不明だし、目覚めたとしても直ぐに動けるかはわからないからな。ただ問題がな…。」

「森の最奥さいおうと言えるだろうこの場所から二人、無事に帰れるのか、ってことだな。」


銀狼フェンリルの転移で訪れたこの場所の正確な位置は不明だが、竜王トニトルスが居る場所が簡単に到達出来る位置に在るわけがない。大体、誰も森の奥に竜が、それもかつての竜王りゅうおうが居るなんて知らないんだからな。


「ん? そうか。ジェミオ、問題は無事に帰れるかどうかじゃない。町へ戻って再びここを訪れる許可が貰えるかどうかだ。」


アルミーが言うことを、頭のなかで反芻はんすうする。

そして言わんとすることを理解した。


「そうか。ここは誰も知らないされた場所で、存在をうわさされることすらなかった。今の状況でこの場所から自力で帰れと言われることはまず無いか。そしてされた場所である以上、二度目の訪問が許される可能性は低い。」


俺が出した答えにアルミーが頷く。


「ああ。だから話し合いで、その事についてもうかがいを立てた方が良い。」

「そうだな。」

来訪らいほうの許可については心配いらぬ。”


方針がまとまったところに竜王トニトルスの声が響いた。


竜王トニトルス殿。おはようございます。」

「おはようございます。五月蝿うるさくしてしまいましたか?」


俺とアルミーは取りえず挨拶を返す。


「いや、微睡まどろみから目覚めたときに丁度ちょうど貴殿等きでんら来訪らいほうの許可の話しをしておったのだ。我が血族の庇護者ひごしゃである貴殿等であれば、ここへの来訪を拒むことはせん。ただし、ここへは転移でなければ来るのは難しいだろう。故に銀狼フェンリル殿の承諾が得られるかが問題だがな。」


起こしてしまったかと心配したが、そうではなかったようでほっとする。そして続く話しの最後の問題点に、誇り高い銀狼フェンリル

様子を思いだし一抹の不安を思った。


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