第57話 強運 (side アルミー)

「あいつが助かって良かった。」


火をかこ静寂せいじゃくの中、ジェミオのこぼした一言はまさに自分の心境だった。


一連の出来事と数多あまたの感情を思い返し、思うこと、考えるべきことは沢山あるが、結局のところは“ヴェルデが助かった”それが全てだった。


「ああ、本当に。…一時はどうなるかと思ったよ。」


情報と気持ちの整理がつき、ほぅと息を吐く。


「たった二日だぜ。森の異常の話から、今ここでこうしているまで。その間にどれだけの事があったよ?」


立てていた膝を崩し、胡座あぐらで座り直したジェミオがまいったという顔をしてぼやいた。


誠実胡桃オネストナッツの緊急採取の依頼に、子銀狼こフェンリルとの遭遇そうぐう銀狼フェンリルとの邂逅かいこう、血の覚醒かくせいに、従魔契約、竜王への請願せいがんと対話といったところか。」


えて一つずつ挙げて答えると、ジェミオは渋面じゅうめんを作って言った。


「なあ、それだけの大事おおごとめ込んで、しまいにはあいつが竜王の子孫とか、どんだけ想像の斜め上行くんだよ。あいつ本当に星の気にさわることしたんじゃないか?」

「ははっ、かばってやりたいところだけど、俺も今回は流石さすがに疑いたくなるな。」


一つひとつですら、昔語むかしがたりにうたわれるような出来事。

他人に聞かされたなら信じられないような体験。

まるでいくつもの伝承でんしょう一纏ひとまとめにしたような二日間だった。


「まあ、あいつが起きたらいてみればいいだろ。」


いつもの調子に戻ったジェミオが言う。


「そうだな。でもヴェルデの事だから、自分でも気付いてないって可能性もあるだろう。」


ヴェルデが慎重しんちょうそうでいて、行き当たりばったりな行動の多い事を思い、俺もいつものように返した。


「あぁ、その可能性もあるか。いや…むしろ、あいつに原因は無いのに、無駄に強い運で引き当てたってのが一番ありそうか…。」


ジェミオもヴェルデの色々やらかしを思い出したのか、思いいたり納得したと言わんばかりだ。


「確かに、良くも悪くも強運きょううん持ちではあるな。結果として今回の目的をこれ以上は無い形で果たすことになるわけだ。」


森に広がっていたドラゴンの魔力と、銀狼フェンリルの予定外の出産とその後の経緯けいい

先程、大まかな事情を聞き、状況を整理すれば森の異常の原因は明らかで、今後の対応の方向性についても明日の対話でほぼ決まるだろう。


本当に偶然ぐうぜんの重なりというより、強いみちびきにつむがれたような邂逅かいこう

そしてそれらの全てが今回の目的の答えにつながっているという事実。

本当にあらゆる意味で強運きょううん持ちな義弟おとうとだ。





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