第53話 男の素性

閉じた瞼に感じる眩しい光が落ち着いて、そっと目を開けると暗闇だった空間が、真っ白な空間に変わっていた。


「ヴェルデ!!」

「うわっ! ちょ、ゼ、ン、まて。」


飛び込んでくるゼーンを抱き止めると、顔中を舐め回して喜びを伝えてくる。

千切れんばかりに振る尻尾も抱える腕に当たって痛いくらいだ。


「ぷはっ、はあ。…ゼーン、頼むから落ち着けって。」


やっとの事でゼーンを引き剥がす。

腕を見ると現れていたうろこは消え、疲れはあっても、不調や違和感は全く無くなっている事に変化を乗り越えたことを実感した。


「これで終わったってことだよな。俺たち本当に助かったんだよな。」

「うん、今度こそ絶対大丈夫だよ! ヴェルデの魔力、前よりも強くなったけど、前と同じ優しい感じがするんだ。」

「そっか。ゼーンありがとな。お前が居てくれて助かったよ。」

「うん。相棒だからね!」


確認する俺の言葉に、未だ興奮冷めやらぬといった様子でゼーンが応えた。


ようや均衡きんこうがとれたか。全く世話のやける奴だ。」


男が腕を組んだ姿でいやはやと首を振った。


「えと、助言助かったよ。後、魔力も。さっき後押ししてくれたのは貴方なんだろう? ありがとう。お陰で命拾いしたし、ゼーンも死なせずに済んだ。」


俺は男に礼を言って、深く頭を下げた。


「礼は銀狼フェンリル殿と二人の庇護者ひごしゃ達、そしてかたわらの幼子おさなごに伝えるがいい。お前が助かったのはその者達の献身けんしんがあったからだ。」


そう言って男がゼーンを見た。


「勿論、皆に感謝してる。貴方にも、ゼーンとゼーンの親父さん、ジェミオとアルミー、フィオに町の皆。そしてあの剣。皆が俺を支え助けてくれた。」

「お前は真っ直ぐだな。あの娘にそっくりだ。」


俺が皆への感謝を言葉にすると、男は懐かしむような、さびしげな瞳を俺に向けた。

その眼差まなざしが不思議な寂寥感せきりょうかんを生む。


「えと、今さらだけど俺の名はヴェルデ。貴方はいったい誰なんだ?」


俺は寂しげな瞳に気付かない振りをして、改めて問いかけた。


「ああ、先程は名乗らなかったな。私の名はトニトルス。この森で隠居している竜だ。そしてお前の先祖だな。」


男はおや、といった表情を浮かべ、思い出したように言った。


「え、竜? 先祖? は?」


思わぬ返答に理解が追い付かない。

え、この人が竜? 

え、竜って人になれんの?

それに先祖って死霊しりょうなのか?


「ひとを勝手に死人にするな。お前、高位の竜は人語を話せるだけでなく、人型にもなれるのを知らなかったのか?」


混乱したことで再び思考が丸聞こえだったらしく、叱責されたうえに衝撃の事実を聞かされた。


竜の存在自体が伝承級なのに、生態なんて知るわけ無いだろ!?









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