第52話 一つに

「お前は血の目覚めによって、自身の有りようが変わってしまう事を恐れている。そうではないか?」

「…俺は…、…。」


突き付けられた言葉に、自覚していなかった事実を突き付けられる。…いや、そうじゃない。

解っていたんだ。


目覚めていく血の魔力ちからに、変化する身体からだ精神こころの侵食、その全てが今の俺を塗り潰していくみたいで、俺が俺で無くなるのが怖かった。

そしてその怖さを認めてしまうと、現実となってしまいそうで気付かないふりをしたんだ。


「その恐れが自身の魔力ちからを異質な存在ものにしているのだ。お前は自身をべねばならん。そしてお前は魔力をべる事がどういうことであるか知っているはずだ。」

「魔力の制御は精神にる。強き意思のみが存在する魔力をべる。」


男の確信を持った言葉に、自然に文言もんごんこぼれ出る。ギルド長ギルマスとリュネさんに叩き込まれた言葉だ。


二人は俺に教えてくれた、

魔力とは自身の内外ないがいに関わらず存在し、制御の対象もまた同じ。

魔力の制御とは強き意思で内外ないがいの魔力を従えること。


「であれば、すべき事など自ずと分かろう。例え竜族の血であろうとも、根本は変わらぬ。そもそも身体からだの制御など己の感覚で行うもの。赤子ですら教えずとも身体の動かしかたは己で勝手に身に付ける。」


なんだか気になる言葉があった気がするが、先程「赤子並み」と言われたのはこのことかと理解すると同時に、言われてもしょうがないと思ってしまった。


「全ては己の想い一つ。お前が望み信じるままに己をべよ。」


男はそう言うと不敵に笑った。


唐突に現れた時にはそれどころじゃなかったが、こうして話していると不思議と馴染んでしまっている。


“大丈夫だ”と男の声無き言葉に背中を押され、俺は自分と向き合う。


怖かったのは想いを失くすこと。

皆から貰った想い。

俺の皆への想い。

変化してそれらが消えてしまう事が怖かった。


でもそうじゃないんだ。


俺は大切な人達を守りたい。

俺を想ってくれる人達に応えたい。

優しい大好きな人達と、大事な幼馴染みフィオと、一生を繋いだ相棒ゼーンと一緒に、俺は俺として生きていたい。


血の目覚めは生きるため。

その為の魔力。その為の変化。

想いを背負い、想いを抱き、星にかえの時まで俺が俺として生きる為に必要な力。


湧き上がる魔力だけでなく、流れる魔力に想いを乗せる。別々の有りようだったものがようやく一つに混じり合う。


強い光が産まれ、つむっていた視界を白く染めた。


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