第51話  指摘

「やれやれ、未熟みじゅくどころか、かえったばかりの赤子あかご並みか。」

「え、誰?」


反射的に問いかけた俺に、男はあきれた眼差まなざしを向けて言った。


「私が何者かを気にするより先に、まずは己の身をどうにかするべきだろう。」


いや、気になるだろ?

ここは俺の精神こころの中だよな?

ゼーンは契約したからだって解るけど、そんなに誰でも入れるもんか? 

それとも俺が心を開き過ぎの、来るもの拒まずなのか?

己の身をどうにかしろって、何とかしようとしてたら突然あんたがひと精神なかに現れたんだろう!?

大体どうにかするべきって言われても、どうしたらいいか判んないから困ってんだよ!

って言うか、なんで知らない他人やつが勝手に入ってきて、「未熟」だの「赤子並み」だの上から言いたい放題してんだよ!?

こいつ本当に誰だよ!?


「ちょっとしっかりして、ヴェルデ。混乱してるのは分かったから、少し落ち着こう。」


ゼーンに足を尻尾でぺしぺしと叩かれ我に返る。次々に起こる出来事に翻弄ほんろうされ続けて、相当そうとう鬱憤うっぷんまっていたらしい。

つい心の中で盛大せいだいに突っ込んでしまった。


「ヴェルデ、残念だけど全部聞こえてたから。」

「え?」

「ここって、精神こころの中だからね。相手に対して伝えようとした言葉は全部聞こえるから。」

「…、…、…。」

「うわ、ヴェルデ、しっかりして! 鱗が!!」


思わぬ事実を聞かされ思考が真っ白になる。

身体からだの変化に抵抗する意思すら瞬間的につぶしてしまい、ゼーンの声にあわててあらがう意思をふるい立てる。


あっ、危なかった。

うっかり思考を飛ばしてしまった。


「お前、この状況下じょうきょうかでそれだけ余所事よそごとを考えられるのなら、己の身体からだ掌握しょうあくすることなど簡単だろう。」


男が俺たちのやり取りを見て、何とも言えないといった表情で言った。


「だから、その方法が判らないんだって。俺の盛大せいだいな突っ込み聞いてたんだろ?」


思いきり言いたいこと言って、一度頭の中を真っ白にしたお陰で、すっきりした俺は自然に言葉を返していた。


「…ふむ。お前、起きている変化と湧き上がっている魔力、自分のものだと思っていないな。」


は? 何を言ってるんだ?

男の言葉が理解できない。

俺の身に起きた変化で事実死にかけてすらいるのに、自分の事だと思っていないなんてそんなわけ…


「理解できないといった顔をしているな。

ではこう言えば解るか? お前はこの変化を恐れている。」

「!!」


俺の表情を見て改めた言葉に俺の心音が大きく響いた。

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