第42話 事情(side アルミー)

ヴェルデの体にあらわれたうろこを見て、動揺どうようが走る。


「これはうろこ…血が目覚めるって言うのは、まさか竜に!?」

「竜王よ! 先程さきほどヴェルデに飲ませたものは何なのですか!?」


ジェミオと同様に信じたくない考えが浮かび、竜王へ問う。


“落ち着け。飲ませたのは私の血だ。先程までは急激に増加する魔力に、自身を馴染なじませることが間に合わなくなった為に体がえられなくなっていたのだ。純粋な竜の血を与えることで体を強化し、体と魔力の変化への耐性たいせいを持たせたのだ。うろこは体を強化した影響で一時的にあらわれているに過ぎん。”


滔々とうとうと説明を受けて、ジェミオと二人で息をく。

次から次へと本当に心臓に悪い。


“変化が落ち着き、血と魔力に馴染むまではこの者が目覚めることはない。もう日も暮れる。何もない場所ところだが貴殿きでんも休むがいい。

そうわれて空を見上げると黄昏たそがれの色が見える。

この場所は魔法でも掛かっているのか、ぼんやりと明るく、状況が状況だっただけに今の今までの高さなど意にもかいしていなかった。

だが時間の経過を認識した途端とたん、自身がひどく疲労していると感じた。


御方おんかた、このような事態じたいまねいておいて大変心苦しいが、一度つがいもとへ戻りたく。のぼる頃、今一度この神聖な場への道をつなぐことをお許し願いたい。”

“そのように気にむことはないとうのに。奥方おくがたの事は心配であろう。このは私が預かるゆえ心配はいらぬ。道もいつでもつなげられるようにしておく。早く奥方の元へ帰ってやるがいい。”


銀狼フェンリルが頭を下げながらうと、竜王は好々爺こうこうやぜんとした様子で答えた。


幾度いくどものご厚意こういに感謝申し上げる。”


改めて礼をうと銀狼フェンリルは転移して行った。


貴殿きでんには申し訳ないが、あの銀狼フェンリルつがいの産後の肥立ひだちが悪くてな。許してやってくれ。”


竜王の言葉にジェミオと顔を見合せた。


「そんな事情が…ではやはり銀狼フェンリル殿はこの森に定住されるということか…」

“いや、そんな話は聞いておらぬぞ?”


ジェミオの呟きを竜王が否定した。


「そうなのですか?」

“ああ。元々あの者達は里に戻る途中、奥方の体調が思わしくない故にこの森で休むだけのはずだったのだ。だが私の用意した結界の中で産気付いてしまってな。どうにか無事に子が産まれたが、奥方の体調が戻らぬため、そのまま養生しておるのだ。”

「…そうですか…」


くと、竜王が銀狼フェンリルの事情の詳細を語ってくれた。

子銀狼の事もある。状況的にすぐに移動するというのは無いだろう。住み着いた状況での対応が必要になるということだ。


“ふむ。そういえば、このような状況になった経緯を聞いていなかったな。貴殿等、聞かせてくれんか?”


考え込む俺達に竜王が訊いてきた。


そういえば、ヴェルデを助けることで一杯になってこれまでの話は一切していなかったと、今更ながらに気づく。


「我々の本来の目的はこの森で起きていた異変の調査です。」


ジェミオと俺はガルブこのの森へ来た本来の目的から、今までの経緯を話した。



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