第41話 謝罪(side ジェミオ)

度重たびかさなる緊張きんちょうおどろきがやっと終わったと思った矢先やさきに、さらに大きな衝撃しょうげきを受ける。


「…まさか…貴方あなたはかつて魔族を滅ぼしたという、竜王なのですか?」


おそおそるといった様子でアルミーがいた。


復讐ふくしゅう雷竜らいりゅう……、今ではそのように呼ばれているのであったな。”


苦笑くしょうするような声音こわね竜王トニトルスが答えた。


目の前のドラゴンが、大昔に魔王と魔族を滅ぼしたという伝説の竜王だという。


銀狼フェンリルに続く竜王ドラゴン=トニトルスとの邂逅かいこう

たった数刻すうこくの間に、伝説と言われる者達と立て続けに遭遇そうぐうし、さらには二度も死のふちに立つなど、ヴェルデこいつは本気で星のさわることでもしたんじゃないのかと言いたくなった。


「失礼を申し上げますが、伝承でんしょうではすでに星にかえられたと伝え聞いておりました。」

“守るべき者を亡くしたおろかなかつての王は、なげきと孤独こどくかり、愛する者の眠る星の元へとかえる時を待つばかりだ。”


若干じゃっかん言いにくそうにげたアルミーの言葉に、そうってほそめた竜王の顔は哀愁あいしゅうに満ちて見えた。


御方おんかた、そして人族の者よ、申し訳ない。”


竜王トニトルス助力じょりょくを願った後から沈黙ちんもくしていた銀狼フェンリルが地へとせ謝罪を始めた。


銀狼フェンリル殿、ここまで俺達をともなってくれた貴方あなた何故なぜ謝罪を?」


俺は原因に思いいたらず理由をいた。


の者が斯様かような命の危機にひんしたのはわれが原因だ。

其方そなた達をはかろうとし、の者の血が目覚めかけているのを知りながら、暴走させてしまった。”

「!…それは…」


銀狼フェンリル重圧プレッシャーが切っ掛けで、ヴェルデの異変いへんが始まったのは確かな事実だ。

だがその異変いへんにより、自身のの命まであきらめざるをえない状況にいたったことを思うと、どう答えるべきか判断がつかない。


貴殿きでんがそこまでせきうことは無い。むしろ貴殿きでんがそして人族の二人がいたことはこの者にとって幸運であった。”


言葉に迷う俺達に、竜王トニトルス念話こえが届いた。


“我の浅慮せんりょまねいた事態を幸運などと…”


許容きょよう出来ないとばかりに銀狼フェンリルうなる。


“この者がその剣を手にした時より、血の目覚めはそう遠くないうちにおとずれた。また剣とわずとも、命が危険にさらされたその時に血は目覚めただろう。それほどにこの者に流れる竜の血はい。”

「そんな…、では遅かれ早かれヴェルデは死のふちに立つことになったと言うのですか!?」


アルミーがいきりたつように言った。


“そうだ。だが血が目覚めたこの時に銀狼フェンリル殿とその幼子おさなご、そしてジェミオ殿とアルミー殿がいた。だからこそ状況を理解し、命をとどめ、我が元へとつながる道が出来た。別の時、別の場所であったなら助かることはなかったはずだ。”


竜王が銀狼フェンリルだけでなく、俺達をもさとすかのようにい、そして続けた。


“我が娘が人族の王にとついでからそれなりの時が過ぎ、人族にいては幾世代いくせだいもに渡って薄まった竜の血は、本来ならば目覚めることなど無い。だが先祖返せんぞがえりしたのだろう。この者の血は我がまご曾孫ひまごと呼べるほどにい血を宿やどしている。ゆえに見るがいい。”


竜王トニトルスあごすように示した先で、眠るヴェルデの右耳の下あたりから右腕のひじまでにあわい緑色のうろこが生えていた。

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