第40話 復讐の雷竜 (side アルミー)

ドラゴンが何かのしずくを飲ませると、濃密な魔力がヴェルデの体からあふれ出した。再び魔力が暴走するのかと一瞬身構みがまえたが、先程さきほどのように苦しむ様子はなく、あふれ出した魔力はふわりとその身を包んでとどまった。


“うむ。どうやら上手うまくいったようだな。”

「ヴェルデは助かったのですか?」


ドラゴン念話こえが聞こえたが不安がぬぐえずにたずねてしまった。

だがドラゴン不快ふかいを表すこともなく、さとすような声音こわねで言葉を返した。


しばらくの眠りは必要だが、この者の命の危険は無くなった。安心するがいい。”


はっきりとそうわれてようやくヴェルデが助かったという事実がみてきた。


「…助かった。はぁぁ。」


そう言って大きく息をきながら隣にいたジェミオが座り込む。


「良かった…。」


そうつぶやいた俺も安堵あんどから、強張こわばった体の力が抜け膝をついた。


“この者は貴殿きでんにとってそれほどまでに大切な存在か?”


なか放心ほうしんに近い状態でいた俺達にいてきたその念話こえに、目の前にる存在を思い出す。


ジェミオが立ち上がりドラゴンへと深く頭を下げ、感謝を告げた。


「ヴェルデを助けていただき感謝します。ヴェルデは俺達にとって同胞どうほうでありえの無い家族、大切な弟分おとうとです。」

“弟とは…人族は自身との血のつながりを重んじるものだと記憶しているが、貴殿きでんの魔力からして血のつながりは無い筈だが?。”


ジェミオが言った『弟分おとうと』の言葉に何故なぜドラゴン関心かんしんいだく。その理由が気になりはしたものの、この時にいては重要なことではないと、えて触れずに感謝を伝えた。


「私達に血のつながりはありませんが、ヴェルデが幼い頃から生きるすべを教え、見守ってきました。隣に立つジェミオも私もヴェルデのことを実の弟のように思っております。この度は義弟おとうとを助けていただき、心より感謝致します。」

"そうか…。"


ドラゴンはそうって何かを想うようにを閉じた。

続く言葉を待って沈黙していると、名をかれた。


貴殿きでんの名をかせてもらえるか?"

「俺の名はジェミオと言います。」

「私はアルミーと言います。」

“ジェミオ殿、アルミー殿、私こそ貴殿きでんに礼を言う。我が名はトニトルス。我が血族の者をいつくしみ、助けていただき感謝する。”


ドラゴンは名を答えた俺達に、おもむろに頭を下げると礼をい、トニトルスと名乗った。


「…トニトルス…復讐の雷竜…」


俺とジェミオ、どちらともつかないつぶやきがれた。


復讐の雷竜、ウルティオ=トニトルス。

この世で最も知られた竜の名だ。


七百年程前、邪神にかれた魔族の王が他の全ての種族を滅ぼそうと侵攻した。

邪神の加護を受けた魔族達により、抵抗した種族の多くの者が命を落とし、滅びの危機に追いやられた。


広がる戦火の中でつがいであるきさきと娘を殺されたドラゴンの王が怒り、その復讐に荒れ狂う力で魔族の王を、従う魔族達を滅ぼした。


の竜の王は戦いの後、その姿を消した。


復讐の果てに多くの種族を、世界を救ったドラゴンの王の名が『トニトルス』。


その悲劇と竜災りゅうさいとも竜罰りゅうばつとも言われ恐れられた破壊の力が、数多あまたの種族の間で語り継がれるうちに、いつしか『復讐の雷竜』『ウルティオ=トニトルス』と呼ばれるようになった。



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