第39話 竜(side ジェミオ)

銀狼フェンリルともなわれて俺とアルミーが転移した先にったのは黒い山だった。山から感じる存在感は、今まで感じたことがないほど大きい。


その山に向かって、本来の大きさに戻った銀狼フェンリルが話し掛けた。


御方おんかた、この神聖な場への立ち入りのお許しをいただき感謝します。”

“…いや、私が動ければ良かったのだがな。貴殿きでんには手間を掛けさせた。”


銀狼フェンリル挨拶あいさつに返す別の念話こえが届くと、目の前の山が動き出す。


頭上に影が落ち、視線を上げるとそこにはドラゴンの顔があった。


子供の頃から聞かされる昔語り。

語られる中のそのどれもが信じられないような強大な力を持ち、人々の畏怖いふと恐怖を体現たいげんするもの。


その威容いようを前に、まるで自分が鞭鼠ウィップマウスどころか羽虫はむしにでもなったような圧倒的な力の差を理解し、生きるものとしての本能が恐怖を覚え、動くどころか声を発する事すら出来なかった。


御方おんかたよりおまねき頂いたのです。手間などと。

何より此度こたび御助力ごじょりょく、心より感謝致します。

かなうならばの者達の助命じょめいを願い申し上げる。”


そうって銀狼フェンリルが礼をとる。その姿に腕に抱える存在を意識し、俺は頭を下げて懇願こんがんした。隣に立つアルミーも同様に頭を下げる。


「どうか力をお貸しください。お願いします。」

「私達の弟分おとうと達を助けてください。」


“ふむ。その者より感じるのは確かに同胞どうほうの力…奇縁きえんもしくはこれも運命さだめか。……、……、人の子よ、その者達をここへ下ろすがいい。”


ドラゴンは目を細めて感慨深かんがいぶかげに言い、聞き取れない旋律せんりつうたうと、目の前の地面から木の根とつるびてからみ合い、人一人ひとひとりを寝かせるだけの大きさのかごを作った。


俺は抱えていたたヴェルデをそっと籠に寝かせて、剣をそのわきに置く。続いてアルミーが子銀狼こフェンリルをヴェルデにうように下ろした。


“………、…、………、…、”


先程とは異なる旋律せんりつドラゴンうたうと、ヴェルデ達を包んでいた光が消える。

そして親指のさき程度ていど深紅しんくしずくがヴェルデの口許くちもとに現れると、うすく開いた口腔こうくうへと消えた。


ヴェルデののどがこくりと動き、しずく嚥下えんかする。数拍すうはく置いてヴェルデの体から魔力であろう淡い光ががあふれ出しその身を包んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る