第38話 名付け
暗く冷たい雨の中、俺を抱く
そして
ああ
俺を抱いた
『生きる』ことを望まれた。
たったそれだけ。
でも何よりも重く、優しい想い。
自分が望まれた存在であることを証明する言葉。
だから俺は生きることを迷わなかった。
生きてあの
そしてあの
生きている俺を見て欲しかった。
あの時、
もう誰も失いたくない。
もうあんな想いはしたくない。
◇ ◇ ◇
気が付けば、真っ暗な空間に独り立つ俺が居た。
何が起きたんだ?
そう考えると、ゆっくりと思い出される。
自身が鮮血を吐き『死』を感じた事までを思い出した。
そうか、俺は死んだのか。
死に
折角あの二人が支えてくれたのに、皆が想ってくれたのに、俺は応えられなかったらしい。
胸が痛み、酷く寒い。
俺はその場で膝を抱え座り込んだ。
どのくらいの時が過ぎたのか、ふと
「おまえ、なんで。」
そこには
「イッショ、ニイル。イッショガ、イイ。」
俺は
「お前まだ産まれたばかりだったろ? 何でなんだ? 何で俺なんだ?」
「ウマレル、マエカラ、シッテタ。アイタイヒト、ガ、イル。ダカラ、サガシタ。タスケテ、クレタ、トキ、ワカッタ。アイタカッタ、ヒト。オレ、ヴェルデ、イッショ、ニイル。ダメ?」
最後に不安げな眼差しを向ける
「駄目じゃない。俺を探してくれたんだな、ありがとう。そしてごめんな。
「ナマエ、ホシイ。」
「え、俺がつけるのか?」
驚いてそう聞き返すと
俺なんかが名付けてもいいのか迷ったが、俺の為にここにいる
「よし、お前の名前は『ゼーン』。古代語で“生きる”って意味だ。次に産まれることが出来たら、また一緒に生きような。」
「『ゼーン』うん、オレの名前。ヴェルデありがとう。」
「ゼーン、お前、言葉が…」
俺の考えた名を、
「ヴェルデがオレを受け入れて、名前をくれたから契約が結ばれたんだ。だから話せるようになったし、ずっと一緒にいられる。」
契約というのは従魔契約のことだろう。まさか死んでからも契約が出来るなんて思わなかった。
「契約…そうか。じゃあゼーンは俺の家族だな。」
ゼーンの「すっと一緒だ」の言葉に弟が出来たような気になって、嬉しくなった俺はそう告げた。
そうして互いに身を寄せ合っていると、不意に鈴の音が聞こえてきた。
その優しい音色に、俺とゼーンが静かに聞き入っていると、温かな光が降り注ぎ、俺たちの体が淡い光に包まれた。
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