第35話 魔力

「先程の話しの続きをうかがっても?」


アルミーが改めて銀狼フェンリルたずねる。


"森に広がる魔力が我のものか? 今後もこの森で暮らすのか? であったな。"


銀狼フェンリルの確認にアルミーとジェミオが頷く。

そこへ俺は言葉を挟んだ。


「森に広がる魔力は違う。この銀狼ひとの魔力とは別のものだ。」

"ほう。"

「ヴェルデ、どう言うことだ?」


俺の言葉に銀狼フェンリルは感心した声を漏らし、ジェミオが聞き返す。

俺は先程から感じている事を説明する。


「さっき、この銀狼ひとが魔力を放出していた時、森に広がった魔力は何の反応も示さなかった。恐らく森に広がっている魔力の持ち主は、ここに居る銀狼フェンリルよりもさらに力のある存在だ。」

「…確かに、ヴェルデの言う通りだ。同じ魔力であれば周囲の魔力が集束するなり、拡散するなり反応があるはず。別の魔力であることは間違いない。」


アルミーが俺の話しを肯定し、ジェミオが表情を曇らせる。


「だが、銀狼フェンリル殿以上の存在となると…それは……。」

「ヴェルデ、間違いないのか? 今朝の話しではそこまで詳しく判らなかったはずだ。」


ジェミオの言葉に伏せられた存在の意味を理解したアルミーが確認してくる。


「さっきこの銀狼ひとの魔力にてられてから、魔力の色が認識できるようになったというか感覚が鋭敏えいびんになってる。それに森の魔力が知っているものに近い感じがしてるんだ。それで…。」


そこまで言って言葉をにごす。

森の深部であろうこの場所で、その存在の名を言っても良いものか。

言葉に、音にすることで、周囲で息を潜める魔獣もの達を刺激するのではないか不安に思う。


"そこまで知覚出来るようになったか。構わぬ、この場には話しがれぬよう、先程より我が結界をかまえておる。其方そなたらがためらう御名おんなは、周囲に影響を及ぼすことは無い。"


躊躇ためらう俺達に銀狼フェンリルは口に出しても大丈夫だと言ってくれた。

それを聞いて、俺は自身の剣をかかげる。


「この剣の魔力に限りなく近い、ドラゴンの魔力を森全体に感じる。」


そうして俺は漆黒しっこくの鞘から剣を抜いた。

抜いた剣から森に漂う魔力ものと同じように強く、それでいて暖かな魔力ちからが感じられる。


"おぉ…"


現れた白銀の刃に銀狼フェンリル感嘆かんたんの声を上げる。

ジェミオとアルミーも昨夜の探索時にわずかに抜いただけで、こうして間近で見せたことがなかったからか剣から目が離せなくなっていた。


"の者よ、大いなる御方おかたの力を宿すその剣は如何いかにして手にした。"

「夢見の助言に従い、求めて示されたのがこの剣だった。」


俺を見極めようとするかのような銀狼フェンリル眼差まなざしを、真っ直ぐに見つめ返し答えた。


"しくも結ばれたえにしよな。これも大いなる御方おかたおもゆえか…"


銀狼フェンリルはそう言って誰かをとうとうやまうようにを閉じた。

その姿に何故なぜ郷愁きょうしゅうおもいがいてくる。

言葉にしがたさびしさのような感情に揺れる俺に、子銀狼こフェンリルが体をり寄せた。


「ありがとうな。」


俺は剣を鞘に納めると、子銀狼こフェンリルをそっとでた。

子銀狼こフェンリルはもっとでろと言うようにぐりぐりと頭をり付ける。


「昨日、抜いた時に感じられなかったのが嘘のような存在感だな。」

「あれがドラゴン魔力ちから波動なみ…」


ジェミオが眩しいものを見たかのようにを細めて言うと、アルミーもそっと息をきながら先程れた魔力の感触を思い出す。


「先程からの銀狼フェンリル殿の言葉といい、ヴェルデの感じた魔力。では本当にこの森にドラゴンがいらっしゃるのか。」

"左様さよう。かの御方おかたは森の深き場所にて静かに休んでおられる。"


諦観ていかんしたようなジェミオの言葉を銀狼フェンリル肯定こうていした。


「我々に森の状態をどうこうするのは不可能と言うことか…」


アルミーも手の打ちようが無いと項垂うなれる。


どうすることも出来ないのか?

相手が銀狼フェンリルドラゴンだから?

俺達はこれから起きることを黙って受け入れるしかないのか?

大切な人たちが傷つき、命を落とすことになっても?


嫌だ。

大切な人を失うのは。

俺が俺の大切なものをあきめるなんて。

それだけは絶対に、嫌だ!!


俺の中の感情があきらめることを否定して荒れ狂う。血液が沸騰ふっとうするように速く強く鼓動こどうひびきだし、頭を体をがんがんと殴り付ける。

魔力がぞわりと動きだし、体という器からあふれ出す。


"む、いかん!!"


銀狼フェンリルが俺の異変に声を上げる。

ジェミオとアルミーもはっとして俺を見た。


「ぅぁあ"あ"あ"あ"あ"っっ」


全身ががバラバラになるような激しい痛みに襲われた俺は、自身を抱き締めるように倒れ込んだ。



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