第33話 銀狼 2

この者達の目的は何なのか。

その眼差まなざしに欲のにごりも、力へのおごりも見て取れず、一の子との様子を見てもなんら危害を加えようとするやからには見えぬ。

しかし、今我がるはかの御方おかたが造りし結界の中。


一の子はわれた内容にどうしたら良いものか戸惑い、首を傾げていた。


実際、結界の中へはかの御方おかたか我とつがいの許し無くば入れぬ場所。

例え我が子であっても出ることは出来ても、入ることは叶わぬ場所なのだ。

それを理解している一の子は、どうすべきか考えている様子だ。


その間、人族の者達は言葉が通じていないのかと、改めて我等の元への案内をうてみるが、一の子の反応はかんばしくないもので、こちらもまた困惑した様子を見せていた。


「なあ、俺達、お前の父さんと母さんに会いたいんだ。頼めるか?」


始めに話し掛けた人族の者が、一の子に我とつがいに会いたい、会わせて欲しいと言葉を変えてうと、それならばと我に「来て欲しい」と呼び掛けてきた。


どれ、の者達がどれ程の者かじかに確かめてくれよう。


我は本来の大きさすがたのまま人族の者達の背後へと転移し、その者達へと魔力を放つ。

すると三人のうち二人は辛うじて耐えて見せたが、一人の者は崩れ落ちた。


我の魔力に耐えきれず、息もままならぬ様子だが意識だけはつないでおり、このままであれば事切れるであろう様子に、一の子が怒りの声をあげながら我に駆け寄ってきた。


この者こそが命を助けた者だと。この者を害するならば、我であっても許さぬと。そう怒りと共に風の魔法をぶつけてきたのだ。


の者を守ろうと、その身の魔力にて風を呼び、つたないながらも魔法として放って見せた。

我は一の子の成長に驚き、喜んだ。


我は放つ魔力を抑えると、の者達を見下ろす。息も絶え絶えだったの者は、どうにか呼吸を整えていた。

一の子はそのかたわらで「大丈夫か」と聞こえぬ声を掛け続けている。


人族の者達の呼吸が落ち着いたのを見計らって『念話レゲイン』で声を掛けた。


“いや、すまん。我が子の安全を図るつもりだったが、人族の身には過剰だったな。”


突然届いた声に、の者が驚き背後を振り返る。そして我を見上げ、こぼした言葉にきょを突かれた。


「うわ、でかい。…え、銀狼フェンリル?…子銀狼こいつの親父さん?」


我はの者の今しがた息も絶え絶えであったにもかかわらず、何事も無かったかの様な反応が愉快に思えた。


“ワッハッハッ、何を言うかと思えば。おびえて命乞いをするでも無く、一言目が「でかい」か。なかなかにきもわった人族よ。其方そなたの言う通りわれがその子の父親だ。昨日その子を蜘蛛より助けたのは其方そなただな。感謝する。”


そう礼を述べ、の者に頭を下げて笑って見せた。


「いや、助けたのは偶然で…えと…初めまして、……でいいのか?」


の者はわれが頭を下げたのに恐縮きょうしゅくしたのか、少々しどろもどろといった様子でつたない挨拶をしてきた。


そして不安げに残りの人族の者達を見たが、残った者はわれ威容いように飲まれて言葉を無くしておった。


だが、の者が改めて二人に声を掛けると、その者等はの者がわれに気安い様子をとがめ始めた。


「…お前、動じないにも程があるだろう?」

「こんな状況で普通に会話が出来るってどうなんだ?」


しかし、我の言葉に返事を返すは当然の事との者は二人に応じた。


「どうって、吃驚びっくりしたとはいえ、自分の発言に対して言葉を返されたら普通応じるだろう!?」

「いや、お前の吃驚びっくりって相手の大きさに対してだけだよな?」

「ほんの少し前に死にそうになってたことや、銀狼フェンリルとの邂逅かいこうに、此処ここへ突然現れたことや、どうやって言葉を伝えてるかとか、他にも驚いたり疑問に思うことがあるだろう?」

「なのにお前ときたら、大きさに驚いた後は銀狼あいて素性すじょうたずねるわ、普通に挨拶するしで、もう何て言ったらいいか…」


その後、の者が未熟であることを叱咤しったし、指導することまで始めた。


“フッ、ハハハハ。本当に物怖ものおじしない者達だ。われを前にしてそのようなり取りが出来るとは。人族にもこのような者達がおったか。”


われがそう言うと、この者達の中で一番の強者であろう人族の者が姿勢と口調を改め頭を下げた。


銀狼フェンリル殿を前に失礼した。申し訳ない。俺はジェミオと言う。」

「同じく失礼ました。私はアルミーと言います。」

「俺はヴェルデ、です。失礼しました。」


一人が頭を下げると、残りの者もの者も続けて頭を下げてきた。



われを前にして怯えるでも無く、取りつくろうこともせず、未熟なものを教え導き、未熟なものは実直じっちょくに言葉を交わす。

そして魔獣われらに対しても礼節をもって相対あいたいする。


なかなかに見所のある者達よ。

このような者達であるならば、話しぐらいは聞いてやっても良いだろう。


“ふむ。魔獣であるわれに名を名乗り、頭を下げるか。礼儀を知る者よ。其方そなたらはわれに会いたいと子に望み、この子が呼んだゆえ、我はこの場に現れた。其方そなたらは何故なにゆえ我との相対あいたいを望んだ?”


そうの者達へ問うてやった。。

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