第30話 再び

あれから俺達は戦闘になりにくい状況を幸いに、魔力による身体強化を掛けた状態で進み、森の中域に足を踏み入れていた。


中域になると木の一本ごとの太さも増し、普通に大木と呼ばれるような木が多くなる。


今は進む速度を落とし、アルミーの『探索アナズィティスィ』と俺の『警戒プロフィラクスィ』を使いながら進んでいた。


探索アナズィティスィ』は周囲の個体魔力の大きさや位置を関知する魔法で、『警戒プロフィラクスィ』は敵意を対象に関知する魔法だ。


流石に中域の魔物ともなると、萎縮してじっとしているようなことも無く、むしろより警戒しているせいで縄張りに踏み込むと容赦なく襲いか掛かって来る。


鈍色にびいろの固い甲殻と鋭い角を持った虫型の灰矛グレイランス、尻尾が鎌のようになっている鎌蛇サイススネーク、枝葉の影から矢のように飛び出してくる矢雉アローフェザントの群れと既に三度の戦闘があった。


アルミーと俺の魔法で居場所は分かってたこともあり、灰矛グレイランス鎌蛇サイススネークはジェミオが剣を一閃、矢雉アローフェザントはアルミーの『石矢ペトラヴェロス』で纏めて射落として終わった。流石は上位者ランカー。特にジェミオが灰矛グレイランスの角の刺突を躱し様に、首、普通の剣では切れない固い甲殻の隙間を綺麗に薙いだのは凄かった。


ちなみに俺は突っ立って見ていたわけではなく、便乗して出てくる藪鼠ブッシュマウスなんかの小物の魔法で殲滅おかたづけという仕事をきちんとこなしていた。


そして今は大木の根本にあるうろで休憩中だ。

大丈夫だとは思うが一応、『結界エンポディオ』を使って安全を確保している。


「中域の魔物達の縄張りが、思った以上に広いな。」

「お陰で遭遇率は低くなってるみだいだがな。」

「そうでもないんじゃないか? 中域に入って一刻程の間に縄張りのぬしだろう魔物との遭遇が三回。魔物達あいつらの警戒具合の高さが知れるって思わないか?」


干し肉を囓りながら、アルミーとジェミオに感じたままを伝える。


「ということは、この先も別の縄張りに入る度にぬしが出てくる可能性が高いわけだ。」


俺の話にこの先を予想したアルミーが言う。

実際のところそうなるのはほぼ間違いないだろう。


「そうだとしても、アルミーの『探索アナズィティスィ』に反応がない以上、探索を進めるしか無いがな。」


水を飲んで一息ついたジェミオがしょうがないといった風に言った。

原因を調べに来てるんだ、当然だよな。


休憩を終え、再び奥へ進もうと『結界エンポディオ』を解除した時だった。


「っ、反応が! すぐ後ろだ!」


アルミーの警告にうろを飛び出し、大木を振り返る。

そこにはうろの縁にちょこんと座り、尻尾を降りながらこちらを見つめる子銀狼こフェンリルの姿があった。


「「「……。」」」


突然の遭遇に、昨日と同じように沈黙してしまった俺達。


「アルミー、どうなってる? 魔法に反応は?」


いち早く復帰したジェミオがアルミーへ確認する。


「直前まで間違いなく反応は無かった。それに目の前の幼体こども以外の反応も無い。」


アルミーがすでに落ち着いた様子で答えた。

状況を確認し会う二人を認識しならも、俺は子銀狼こフェンリルに話しかけた。


「昨日、俺達が会ったのはお前か?」


そう訊くと子銀狼こフェンリルは嬉しそうに激しく尻尾を振り始める。


「昨日の子銀狼やつで間違いないみたいだ。ジェミオどうする?」


本狼ほんにんと確認した俺は、指揮者リーダーであるジェミオに指示を仰ぐ。

ジェミオは驚いたように一言溢すと、気を取り直したように言葉を続けた。


「お前、凄いな。…って、直接来てくれたんなら手間が省けた。おまけにこっちの言葉も理解してるみたいだ。子銀狼こいつに親の所まで案内してもらうか。」


そのままジェミオは子銀狼こフェンリルに話しかける。


「なあ、俺達をお前の親のところへ案内してくれないか?」


そう言われた子銀狼こフェンリルは尻尾を振りながら首を傾げる。


「俺達を、お前の、親の所まで、連れて行ってくれないか?」


改めてジェミオが告げる。

だが、子銀狼こフェンリルは再び首を傾げた。


「どういうことだ? 通じてないのか?」


ジェミオが怪訝な顔をする。

様子を見ていたアルミーが言った。


「もしかして、ヴェルデじゃないと駄目なのか? ヴェルデ、頼んでみてくれ。」

「え、ああ分かった。」


アルミーに言われて子銀狼こフェンリルに改めて頼む。


「なあ、俺達、お前の父さんと母さんのに会いたいんだ。頼めるか?」


そう言うと子銀狼こフェンリルは千切れんばかりに尻尾を振りながらこくりと頷くと、声無く吠えた。



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