第28話 真意

「…怖い?…二人が?」

「ああ、そうだ。」


ジェミオが肯定する。

上級者ランカーの二人が怖い? 

どうして…? 命の危険の事か? であるなら、関わらせろというのはおかしい。じゃあ二人は何を怖いと感じている?


「解らないか? 俺達もお前と同じだ。」

「俺達が怖いのはヴェルデ、お前を、仲間を失くすことだよ。」


困惑する俺に二人は真剣なをして告げた。


「お前が周囲まわり人達やつらを関わらせて死なせたくないと思っているように、俺達はお前を死なせたくない。死の危険があると解っていて、お前を独りには出来ない。」

「ヴェルデ、もし逆の立場だったらお前はどうした?」

「逆の立場だったら…?」

「ああ、もし俺達がお前よりも低ランクだったとしたら、もし今回の夢見よげんに関わるのがお前ではなくフィオだったら、お前は関わらず静観したか?」

「!! そんなわけ無い!!」


危険だと、死ぬかもしれないと知っていて黙っているなんて、何もせずにいるなんて出来る訳がない!

何もせずに死んでしまったら、失くしてしまったら俺は自分が許せない。

自分勝手だろうが、我が儘だろうが失くすそんな事になるくらいなら何を言われても手を貸すし、何がなんでも死なせない!


「俺に出来る全てを使って一緒に生き延びて見せる!」


俺はそう言って二人を見返した。

二人は優しいをして俺を見ていた。


「お前だったらそうするよな。」

「だったら俺達の気持ちも解るだろう?」

「ぁ…」


ストンと二人の言葉が入ってきて、漸く『同じだ』と言われた意味を理解した。


漸く俺が理解したことが解った二人はさっきまでの真剣な雰囲気を霧散させた。

二人の顔に笑みが浮かぶ。


「それに今回の夢見よげんは一人で対処することを求められている訳じゃないだろう?」


アルミーにそう言われて、改めてリュネさんの言葉を思い出す。


『ヴェル坊、剣を買うなら今手に入れられる最上の物を選びな。』


そうだ何が起きるかを具体的に聞いた訳じゃない。一人で対処しろと言われた訳でも、死ぬかもしれないと言われた訳でもない。

ギルドでのやりとりは…

『森に入るのに武器が無い、金が無くて十分な準備が出来ないじゃ、死にに行くようなもんだ。つまり、お前を死なせる気はないってこった。』

不十分な装備で死なせる気はないって…


「…、…、…え、もしかして俺の気負いすぎ?」


思い返した内容に愕然とし、余裕を無くしていた自分に気づく。


さっきまでの俺、思い詰めたり、二人の反応にビクビクしたり、かなり悲壮感漂ってたんじゃ…

おまけになんか決意したって感じに宣言してた気が…、…。


うわ、何やってるんだよ。馬鹿か俺。

めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。

全身が火照って、きっと首や耳まで真っ赤になってる。


「くくっ、お前真っ赤だぞ。」


案の定、ジェミオの声が降ってくる。

あまりの羞恥に顔が上げられない。


「ふふっ、思い詰めると周りが見えなくなるのは相変わらずだな。」


ジェミオに言われても、はい、返す言葉がありません。

こんなだから司祭様せんせいやホリーに説教おはなしされるんだって。

でもリュネさんにあんなこと言われたら、危機感煽られてもしょうがないだろう。


頭の中でああでもない、こうでもないと言い訳しているうちにふと気づく。

あれ、ジェミオとアルミーもかなり真剣に話してたよな?


「…二人だってそれっぽいこと言ってたじゃないか。」


俺が恨めしげに二人を見るが、動じた様子はなくむしろ当然だろうと言うように話しだす。


「ああ、さっき俺達が言った言葉は本気だからな。」

「思い詰めてるときのヴェルデは、理屈で話されても言葉の裏を探って真っ直ぐに受け止められないだろう? こんなときでもなければ俺達の気持ちも、社交辞令のように流してきちんと伝わらなかったんじゃないか?」


アルミーが諭すように言う。


「おまけにお前すぐに抱え込んじまうからな。責任感と言えば聞こえが言いかもしれんが、お前のは行き過ぎた自己犠牲だ。

なんのためにギルドがあって、仲間がいて同行者パーティーを組むと思ってる。

入れ替りの激しい町ならともかく、マルゴの町やギルドの連中は、お前を教え育てた家族みたいなもんだろ。もっと周りを信じて頼れ。一人で出来ることなんざたかが知れてるんだからな。」


厳しい内容と正論に、ぐうの音もでない。

確かに二人の言うとおり冷静になる前だったら、巻き込みたくないって気持ちが強すぎて、素直に言うことを聞かなかっただろう事は、我ながら想像がつく。


本当に余裕無くしてたんだなぁ~

フィオも俺が余裕無くしてるのが解ったてたから、一緒に来るなんて言ったんだな。

帰ったら酒奢るか…。

何とも言えない情けなさと安堵感に大きな溜め息が出た。


まだ身体中の火照りは収まらないが、頭の中の整理はついた。

顔を上げて二人を真っ直ぐに見て立ち上がると、俺は二人に頭を下げる。


「ごめん。人の声を聞く耳も、周りを見ることも出来なくなってること、どれだけ余裕がなかったか自覚した。それに二人の気持ちも嬉しかった、ありがとう。」

「ヴェルデの無茶をみんなが心配しているって解ったならそれでいいさ。」

「本当、お前見てると冷やひやするよ。大体、お前が俺達の心配なんざまだまだ早いっつうの。」


ジェミオとアルミーはしょうがない奴だと言って、俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。

俺は潤んだ瞳を誤魔化すように、黙ってそれを受け入れた。



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