第24話 side アルミー

夜営場所に着いて直ぐヴェルデが川へ水を汲みに行ったが、その表情は硬く、酷く疲れているように見えた。


俺は馬達を少し離れたところへ連れて行くと、腕輪バングルから干し草を出し、馬達が干し草を食む様子に問題無いのを見てとると、火を起こしているジェミオの元へ向かった。


燃え始めた火の側に座り、薬缶ケトルに水を入れ火に掛ける。

湯が沸くのを待つ間、ヴェルデの事が気にかかり川の方を見ていると、ジェミオが話しかけてきた。


「あいつ、だいぶ思い詰めてるな。」

「ああ。周囲への警戒なんかはいつも通り出来てるから無意識なんだろうけど、参ってる感じだな。」


やはりジェミオもヴェルデの様子が気になっていたらしい。


昼間に打ち合わせたときも不安気な様子を見せていたが、緊急で町を飛び出してきてからも、時々一瞬だが、不安気だったり、思い詰めた表情を浮かべていた。

俺もジェミオも本人が話さないならと様子を見ていたが、さっきの疲れた表情を見るに、無理にでも話しを聴いた方が良さそうだ。


食事めしの後にでも、吐かせるか。」

「そうだな。」


   ◇ ◇ ◇


「で、お前何があった?」


食事を終え一息ついて落ち着いた頃、ジェミオが切り出した。


「えっ? 何の話しだ?」


突然の話しにヴェルデが驚いて返す。

その様子に俺達は小さく息を吐いた。


「お前、何か面倒なこと起きてるだろう。聴いてやるから話せ。昼間会った時から、時折思い詰めた表情をしたと思えば、無意識だろうがいつも通りをよそおうとして、感情の降り幅がお前にしてはあり過ぎる。」

「俺達には何も出来ない事かも知れないが、吐き出すだけでもちょっとは楽になるだろう? だから話してみな。」


ジェミオに続いてそう言うと、ヴェルデは目をみはり、苦笑を浮かべた。


そうしてぽつぽつと昨日からの出来事を話し出したその内容に俺達は驚き、納得し、呆れてしまった。


大猪ボアに剣の破損。夢見の予言に、大金ぜんざいさんの支払い、そして森の調査依頼に緊急依頼。そして銀狼フェンリル幼体こどもとの遭遇。


よくもまあ、こんな状態を今まで黙って耐えていたと感心するとともに呆れてしまう。

個別でも面倒事イレギュラーだと言うのに、まるで詰合せの様だ。

こんな出来事が立て続けに起きていたなら、ヴェルデでなくとも参ってしまうだろう。

本当に我慢強いと言うか、無茶と言うか。


「状況は解った。お前、取り敢えず先に休め。というか今晩は見張りは俺達でやってやるから、朝までしっかり寝てろ。」

「いや、でも。」

「でもじゃねぇ。休息日やすみ潰したうえに、そんな疲れた顔して何言ってやがる。肝心なときにぶっ倒れたら話しにならん。指揮者リーダー命令だ。とっとと寝ちまえ。」


ジェミオは渋るヴェルデに畳み掛けるように言うと、追い払うように手を降った。


「何かあればちゃんと起こすし、ジェミオと俺がいてそう危なくなる事も無いさ。」

「分かった。ごめん、後頼む。」

「気にするな。しっかり休めよ。」


俺がそう続けると、本人も疲れを自覚していたのか、俺達に詫びると火から少し離れたところに移動し、敷布と外套を出すと横になった。


俺達が黙ったまま様子を窺っていると、暫くして寝息が聴こえてきた。


「あいつの抱えているもの、思った以上にでかかったな。」


同じようにヴェルデが寝たのを確認したジェミオが話し出す。


「ああ。俺達でも愚痴の一つも溢すだろう状況で、よく耐えてたよ。」

「あいつ、俺達が訊かなきゃ黙って一人で抱え込んだままでいるつもりだったんだぜ。ったく、頑固なのは子供ガキの頃から変わらねえ。もっと周りを頼れっての。」


苦虫を噛み潰したような顔をしたジェミオが言う。

俺もその気持ちはよく解る。


「でも、それが出来ないものヴェルデだろう?」


ヴェルデはいつも一人で何とかしようとする。普段の依頼もそうだ。ちょくちょくフィオと組んではいるが、それ以外の時は基本自分一人でこなせると判断した依頼しか受けていない。

勿論、協力を頼まれれば一緒に依頼を受けるし、同行者との協力も惜しまない。協調性がないわけでなく、むしろ人懐っこい性格をしている。


だが、ヴェルデは人が離れることを酷く恐れているように感じる。


常に一歩引いた状態で相手の様子を窺い、相手の感情の色を見ている。そして相手の負担になることに罪悪感を感じ、そうさせている自分が許せない。

だから、人に甘えることは、相手に負担を掛けるように思えているのも理解しているつもりだ。


それでも、俺もジェミオもヴェルデにたまには甘えて欲しいと思ってしまう。

子供の頃から見てきた不器用な弟分に。


「まあ、ヴェルデの抱えてるものが分かったんだ。根本的な解決は本人にしか出来なくても、あいつを死なせないよう手助けフォローしてやることは出来るさ。」

「まあな。吐き出した分、少しはましになっただろうし。それに助けてやるために俺達がいるんだからな。」

「ああ。」


ジェミオの言葉に頷いて返した。



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