第23話 夜食

水を汲んで戻ると、干し草をんでいる馬達の側に置いてやる。馬達は待っていたとばかりに飲み始めた。


「お前達、今日は頑張ってくれてありがとうな。」


その体を撫でてやりながら馬の様子を見る。三頭とも落ち着いた様子で、どこにも異常は無いようだ。

問題ないことを確認した俺は、火のそばで待つ二人のもとへ向かった。


「ヴェルデ、お疲れ。」

「水やり終ったよ。馬達は問題なさそうだ。」

「んじゃ、俺達も飯にするか。」


火の側に腰を下ろすと、腕輪バングルからパンと干し肉と乾燥させたくず野菜、そして器を取り出す。

器に干し肉と乾燥野菜を入れ、目の前で沸くお湯を注いで暫く置いておく。するとふわりと食欲をそそる香りがしてきた。


「お、なんだ? いい匂いだな。」

「香草なんて準備してたのか?」


それぞれが薬草茶おちゃ具挟みパンサンドイッチを手に食べ始めていた二人が、匂いに誘われたように声を掛けてきた。


「いや、この香りは干し肉から出てる。俺の野宿のご馳走だ。仕入元は教えられないけど、二人とも食べてみるか?」


そう答えると、干し肉を二枚取り出して渡す。


「へえ、こっちは更に旨そうな匂いだな。」

「多種の香草が使われているみたいだね。手間をかけてるのが香りで判るよ。」

「「………」」


そう言って一口食べた二人は無言になった。

俺は黙ったまま干し肉を噛み締めている二人を横目に、いい感じに戻ったスープを飲んだ。


うん、旨い。やっぱりおっちゃんの干し肉は最高だな。


「旨いだろ。その干し肉それ。」


今だ無言の二人に声を掛けると、ようやく飲み込んだ二人は真剣な目をして俺を見た。


「「おい、これ何処で売ってる!?」」


二人とも掴みかからんばかりの勢いだ。

その気持ちよく解る。かつての俺もそうだった。


「さっきも言ったけど、仕入元は言えない。っていうか、これ売り物じゃないんだよ。ある人が自分用に作ってる秘蔵品を、無理言って分けてもらってるんだ。」


そう言うと、二人はあからさまにがっくりと肩を落とした。


「そうか、売り物じゃないのか。」

「あ~、この干し肉があれば夜営が楽しみになるどころか、待ち遠しくなるのになぁ。この旨さなら銀貨払ってもいいぞ。」

「でも、売れば儲かるだろうに、何故商売にしないんだ?」


心底悔しそうに言うジェミオの横で、アルミーが疑問を口にする。

それに俺は苦笑混じりで答えた。


「俺もその人に訊いたよ。『なんで売り物にしないんだ?』って。そしたら、『カミさんに内緒で作ってるから、バレたら不味いんだ。それに売り物にしちまうと、自分が食べられなくなるから駄目だ。』だってさ。」


二人は俺の話に目を丸くし、笑いだした。


「ははっ、それならしょうがねぇな。何処の旦那も奥さん怒らせたら大変だからな。」

「ふふっ。確かに売り物に手を出せば間違いなく怒られるな。うん、それならしょうがない。」


町で度々見かける夫婦のやりとりを思いだし、二人は納得した。


「ヴェルデ、その人がもし売りに出す気になったら俺に教えろよ。そんときゃ絶対に買いに行くからな。」

「俺にも連絡を頼むよ。」

「ああ、分かった。でも俺の分を確保した後でな。」

「ったく、ちゃっかりしてるよ。」


多分に願いのこもった二人の言葉に、俺は快く返事をした。


   ◇ ◇ ◇


「で、お前何があった?」


食事を終え一息ついて、そろそろ見張りを決めて休もうかといった頃、ジェミオが切り出した。


「えっ? 何の話しだ?」


突然の話しに驚いて返すと、ジェミオとアルミーは小さく息を吐いた。


「お前、何か面倒なこと起きてるだろう。聴いてやるから話せ。昼間あった時から、時折思い詰めた表情をしたと思えば、無意識だろうがいつも通りをよそおうとして、感情の振り幅がお前にしてはあり過ぎる。」

「俺達には何も出来ない事かも知れないが、吐き出すだけでもちょっとは楽になるだろう? だから話してみな。」


二人は真剣なそれでいて心配するで俺を見る。

隠したつもりでいたけど、知らないうちに出ていたらしい。そして二人は気付いていて今まで見守ってくれていたんだ。


本当に、俺の周りは優しい人ばっかりだ。



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