第18話 嘘吐胡桃

町に戻ると空気が慌ただしい。

見張りの騎士に訊いてみる。


「何があったんだ?」

「ヴェルデ、戻ったか。急病人が出たらしい。お前が戻ったらギルドに来るよう、伝言があったぞ。」

「分かった。急いで行くよ。」


   ◇ ◇ ◇


ギルドに入ると、ざわざわとした空気の中、カウンターの前でギルド長ギルマス達が集まって何やら話していた。


「ヴェル! 早くこっちに来てくれ!」


集まりの中にいたフィオが俺を呼ぶ。


「一体何があったんだ!?」

「ミオスとミニスが嘘吐胡桃ライアーナッツを食べて倒れたらしい。さっきリコルが知らせに来た。」


駆け寄り、何事か訊いた俺にアルミーが答えた。ミオスとミニスは孤児院にいる十歳の双子だ。


嘘吐胡桃ライアーナッツだって!? 何であいつら。 胡桃クルの木なんて、森にしかないはずだろ!?」


俺の問いに、ジェミオが答えた。


「それが、いつの間にか町の裏手に生えていたらしい。誠実胡桃オネストナッツと間違えたんだ。」


胡桃クルには二種類ある。誠実胡桃オネストナッツ嘘吐胡桃ライアーナッツだ。

誠実胡桃オネストナッツは本来胡桃クルと言う名の大人の腰くらいの高さの植物で、その実はほのかかに甘く滋養がある。


だが、嘘吐胡桃ライアーナッツは魔物だ。

一目では誠実胡桃オネストナッツと見分けがつかない。

見分ける違いは、嘘吐胡桃ライアーナッツの葉の付け根には小さな刺があり、葉の裏が幾分白い。

実の外見は全く同じで、わずかに色の濃い線が一本入っているだけ。なので一度採ってしまうと、慣れない者にどちらかの判別をするのはほぼ無理だ。


そして嘘吐胡桃ライアーナッツには毒がある。毒と言っても普通の毒ではなく、実に含まれている固有の魔力が人の魔力と拒絶反応を起こす。

放っておくと拒絶反応に耐えられなくなった体が徐々に壊死してしまう。


回復薬や回復魔法は逆に拒絶反応を強めるため、先に魔力を中和してからでないと使えない。その魔力を中和するには正直胡桃オネストナッツを煎じて飲ませるしかない。


だが…。


「こうして騒ぎになっているってことは、正直胡桃オネストナッツが町には無いってことだな?」

「そうだ、さっき手の空いてる奴等に町中当たらせたが無かった。」


状況を理解した俺が確認すると、アルサドが肯定する。


「ヴェルデ、正直胡桃オネストナッツのある場所は把握しているか?」


ギルド長ギルマスが訊いてきた。


「当たり前だろ。町から近い森の外縁そとから少し入ったところに生えてた。昨日行く途中で確認してるから間違いない。」

「そうか。すまんがお前達、今から向かってくれるか?」


俺の答えに、ギルド長ギルマスはジェミオとアルミーと俺を順に視線を合わせ、直ぐの出発を求めた。

勿論、否と言うはずもない。


「ヴェルデ、大丈夫か?」

「ああ、慣らしも終わって問題なかったから大丈夫だ。」


ジェミオに確認され、頷いて答える。

アルミーも無言で頷き、動き出そうとした時だった。


「俺も行く!」


フィオが声を上げた。


「俺が一緒に行って胡桃クルを持って帰ってくる。ヴェル達は森の調査が仕事だろ。ならそのまま進んで、自分達の仕事をしろよ。」


そう言ってギルド長ギルマスを見た。


「フィオ、行ってくれ。」


ギルド長ギルマスは頷くと、フィオの同行を認めた。


そうして俺達は用意された馬に乗り、森へ駆けた。



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