第16話 side ジェミオ

ギルド長キルマスに呼び出され部屋を訪ねると、同僚なかまのアルミーがいた。

どうやら今回はこいつと組む事になるようだ。


「来たか、ジェミオ。座ってくれ。」

態々わざわざ俺達を呼び出して、何があったんだ?」


アルミーの横に腰を掛けると、率直そっちょくに訊いた。

ギルド長ギルマスは真剣な表情で話し始める。


「昨日、丘で樹木鹿ツリーディアの小規模な群れが出た。それとは別に、森の外縁そとで大型のボアもだ。こっちは荷車程の大きさで、解体時に計った重量は三百五十トラムを越えていた。」

「三百五十だって? 化け物じゃないか! 誰が遭遇して、今どうなってるんだ?」


聞いたボアの大きさに俺もアルミーも驚き表情を固くする。そして、普段外縁そとで狩りをしてるランクCれんちゅうに被害が出たかと思い、問いかけた。

だが、俺の問いに対するギルド長ギルマスの答えにさらに驚くことになった。


「大丈夫だ。被害はない。樹木鹿ツリーディア大猪ボアも討伐済みだ。」

樹木鹿ツリーディアはともかく、そんな大猪ばけものを誰が仕留めたんだ?」

「仕留めたのはヴェルデだ。」


その名を聞いて納得した。あいつの腕だったら問題なく殺れるだろう。


ギルド長ギルマスからは森の調査を依頼され、俺とアルミーは迷うこと無く請けた。すぐに出発するのかと訊けば、この後、ヴェルデにも依頼はなしをすると言う。

昨日の今日なら、あいつは休養日やすみだろうと考えを巡らせると、ギルド長ギルマスも同じ考えだったらしく、出発は明朝になった。


その後アルミーとギルド長ギルマスの部屋を出ると、どうせヴェルデも顔を出すならと、待って打合せをすることにした。


   ◇ ◇ ◇


ヴェルデあいつは、俺がようやくランクCに上がった頃からよくギルドにも顔を出していた。

小さいガキのくせに狩りをしては、捕った獲物や、採取した薬草なんかをギルドに売り、その金で同じ孤児院に住む子供達やつら食べ物くいもんなんかを買っていた。


この町の冒険者は他の町へ流れることはほとんど無い。ガルブの森があるお陰で、腕と知識さえあればそこそこに稼げるからだ。


そのうち、あいつは顔馴染みになった冒険者たちに狩りの仕方や採取のコツなんかを訊くようになり、気が付けば冒険者仲間おれたちの間で、弟分のような存在となっていた。

皆、暇があればあいつに構い、武器の使い方を教え、知識を教え、経験談はなしを聞かせた。

あいつは物覚えも良く、それが余計に俺達が教えることを面白くさせた。

そしてどんどんと成長していくあいつに追い抜かれまいと、俺も他の連中やつらも結構本気で腕を磨いたのは、あいつには内緒ひみつだ。


   ◇ ◇ ◇


二階から下りてきたあいつに気が付き声を掛ける。

あいつがテーブルに着くなり、待っていた俺達に『自分が依頼を請けなかったらどうするつもりだ』と言うので、アルミーと本音混じりでからかってやると、耳を真っ赤にして顔をらす。


ほんといじられるのに弱いよな。


まあ、いつまでも遊ぶわけにもいかないから、真面目に打ち合わせるか。


今回は俺が同行者パーティの指揮をとる。

仲間メンバー内で一番ランクの高いものが指揮者リーダーとなるのは、冒険者の暗黙の決まりルールだ。

理由は簡単、ランクが高いと言うことは、それまでの経験が多いという事だからだ。


そんなわけで、話を進めていくと、アルミーが夜営も必要だろうと言う。

確かに、夜の状態の確認は必要だ。

森に詳しいヴェルデに夜営場所の心当たりを訊くと、直ぐに答えが返ってきた。

実際に使って問題が無かった場所なら言うことは無いな。


夜営場所も決まり、持ち物の話しになるとヴェルデの表情かおわずかに変わる。

そして申し訳なさそうな表情かおをして俺達に謝ってきた。


こいつ、何かあったな?

どこか不安気な様子に見える。


…しょうがねぇなぁ。

頭をくしゃくしゃに撫で回してやった。


「ちょ、何すんだよ!」


「何落ち込んでんだよ。お前が大猪おおもの仕留しとめた件は聞いてる。剣が折れたのは、命守った代償だ。お前、今日は休養日やすみだろ。だからこそ親父さんとこにいく予定にしてたんだろうが。」


そう言ってやると、軽く目をみはり、続くアルミーの言葉で表情かおが明るくなった。


気を持ち直したヴェルデは、親父さんの店に行くと言ってギルドを出ていった。


やれやれ、やっぱり可愛い弟分だよ。お前は。




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