第15話 打ち合せ

無事ホリーに知られバレずに、金を引き出した俺は、ギルド長ギルマスの部屋を後にした。


階段を下りながら食堂兼酒場しょくじどころの方を見ると、アルミーとジェミオが一緒にいるのが見えた。

声を掛けようとするが、それよりも早く二人が俺に気付いて手を上げた。


「ヴェルデ、こっちだ。」


テーブルに着くと、二人は依頼の打ち合わせをするために、俺を待っていたと言う。


短く刈った濃紺のうこんの髪をしたジェミオはランクAの剣士で、青灰色せいかいしょくの長い髪を後ろで一つにくくっているのがアルミー、ランクBの魔法士まほうしだ。


「待ってたって、俺がけなかったらどうするつもりだったんだ?」

「そんときは別の誰かに声を掛けるさ。でもそんな事にはならないと思ってたけどな。お前もだろ?」


俺の言葉にジェミオが面白がって言う。

アルミーもうなずいて言った。


「ああ。魔法の師匠とも言えるギルド長ギルマスからの依頼をヴェルデが断るはずは無いからね。それにギルド長ギルマスのお墨付きで森に入れる機会チャンスだ。普段は独りソロで依頼をけるせいか慎重しんちょうだけれど、本当は好きだろう? 冒険アタックが。」


そう言われると、返す言葉が出てこない。

なんとなく気恥きはずかしくなり、視線をらした。

そんな俺を見てくつくつ笑う二人の様子にさらに居たたまれなくなり、無理矢理話しを進めることにした。


「明日は朝一の鐘で出発って言われてるけど、足はどうするんだ?」


訊くと、二人は笑いを納め依頼について話しだした。

通常、臨時の同行者パーティーで動く際には、一番ランクの高い者が指示者リーダーになる。今回はジェミオだ。


「馬を頼んである。行き帰りの短縮もそうだが、何かあった時に一番早く戻ってこれるからな。」

「今回は森の状況の確認と、起きているであろう異常の原因調査だからね。出来るだけ詳しく調べる必要がある以上、向こうでの夜営も必要だろう。」

「取り敢えず、現地に二泊ってところか。夜営に適した場所があるか?」

「森の外縁そとしばらく西に進んでから、北に上がった川の近くなら、いくらか開けてて見張りもしやすいな。前に使ったことがある場所だし。雨も降らないだろ。」


夜営場所について訊かれたので、以前使ったことのある場所を答える。


「なら、そこで決まりだな。後は、消耗品なんかの補充だが、俺は一通り揃ってるから問題ない。直ぐでも出られるぞ。」


実際に使った場所と言うことで、夜営場所はそのまま決定する。続けて持ち物の話になる。


「こっちも装備品含め、薬もそろっているから、大丈夫だよ。」


二人ともいつでも出られると聞いて、明朝の出発が本当に俺の為だと理解する。


「俺、持ってくものは問題ないけど、剣を昨日折っちゃってさ。この後、親父さんのところに行く予定なんだ。悪い、二人を待たせることになる。」


二人に伝えながら自分が情けなくなる。

つねに動けるようにしておくのが冒険者の基本なのに、自分の武器けんさえ無い状況で依頼をけるなんて、これでランクCいちにんまえとか言ってるんだから馬鹿だよなあ。


気落ちしていると、ごつごつした手が俺の頭をくしゃくしゃと撫で回した。


「ちょ、何すんだよ!」

「何落ち込んでんだよ。お前が大猪おおもの仕留しとめた件は聞いてる。剣が折れたのは、命守った代償だ。お前、今日は休養日やすみだろ。だからこそ親父さんとこに行く予定にしてたんだろうが。」

「俺たちは昨日まで休養日やすみだったんだから準備が出来ていて当然だろう。それに初めから出発は明朝だって言われてるんだから、謝る必要なんて無いさ。」


二人に言われて気持ちが軽くなる。


「分かった。じゃあ、親父さんのところに行ってくる。明日は一の鐘が鳴る前に、門のところでいいんだよな?」

「ああ。じゃあ、明日な。」

「親父さんによろしく。」


そう言葉を交わし、ギルドを出た。


俺もまだまだだなあ。



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