第14話 ギルド長からの依頼

「引き出すのが全額とはどう言うことだ?」


アルサドが低くなった声で訊く。

ギルド長ギルマスもいつの間にかこちらを見て、俺が答えるのを待っていた。

二人はリュネさんの能力ちからの事を知っているので隠さずに話した。


「…えっと『剣を買うなら今持てる最上の物を選べ』ってリュネさんから助言をもらって、それを親父さんに伝えて出された剣が、金貨十五枚だった。」

「金貨十五枚って、大金じゃねぇか。お前、それで納得したのか?」

「ああ。リュネさんの話を聞いて、親父さんが選んだんだ。きっと今の俺に必要で、あの剣じゃなければ死ぬだめかもしれない。ならほかの選択は無いよ。生きてれば金はまたかせげる。それに足りない分は『かせいで払えって』親父さん言ってくれたからな。」


俺の答えを聞くと、二人は納得した様子でうなずいた。

そしてギルド長ギルマスは俺にひとつの提案をしてきた。


「ヴェルデ、ひとつ依頼をけてくれないか? けてくれるなら剣の代金を全額無利子むりしで貸してやる。」

「え? どう言うこと?」


突然の展開に反射的に訊き返す。

要領をない俺にギルド長ギルマスが話してくれた。


「昨日、お前が仕留しとめた大猪ボアの他に、丘で樹木鹿ツリーディアが出た。どちらもいるはずの無い場所に出てきたんだ。どちらかであれば偶然ぐうぜんかもしれん。だが同じことが同時に起こるならば、何か原因があるはずだ。お前にはその原因を調べに森へ入って欲しい。報酬は通常の調査依頼の報酬と合わせて、さっき言った無利子むりしでの金の貸し出しだ。」


どうやら昨日の大猪ボアは異変の一端いったんらしい。

森に行く機会の多い俺に声が掛かるのは解るとして、調査を一人でとなると何かあった時に不味まずいんだが。

そう考えてギルド長ギルマスへ確認する。


けるのは良いけど、俺一人で? それだとあんまり奥までは無理だし、何かあった時に情報が伝わらないんじゃ。」

「もちろん、お前一人で行かせる訳じゃない。アルミーとジェミオが同行する。」


ギルド長ギルマスは当然だと、同行者がいることを教えてくれた。これなら問題無いな。


「解った。出発はこの後ぐ?」

「いや、明日の朝一でいい。森に分け入ることになるんだ、それなりの準備がいるだろう?」

「まあ、剣の事もあるし時間に余裕があるのは助かる。」


出発時間も余裕をみてくれたらしい。

でもあと一つ疑問が残る。


ギルド長ギルマス、もう一つ聞いてもいいか?」

「何だ? 一つと言わず、気になることは聞いておけよ。」

「うん、訊きたいのは、何で金まで貸してくれるんだ? それも無利子で報酬とは別なんて、普通無いよな?」


俺が訊くと、ギルド長はそんなことかという顔をした。


「金を貸すのは、お前が依頼を受けるのに支障ししょうがあっては困るからだ。」

「森に入るのに武器が無い、金が無くて十分な準備が出来ないじゃ、死にに行くようなもんだ。つまり、お前を死なせる気はないってこった。」


ギルド長の答えに、アルサドが補足した。

そうか、心配してくれたのか…でも。


「折角だけど、金は借りない。」


俺がいうと二人はそろって目をすがめた。


「親父さんがえて後払いを許してくれた『生きて帰れ』っていう、その想いと信頼は裏切れない。それに俺だって馬鹿じゃない。当面の生活費といくらかは手元に残すよ。」


俺は二人のを見返して伝えた。


「お前がそんなをするときは、絶対に引かないからな。解った。アルサド、手続きしてやってくれ。」

「やれやれ、本当に頑固なやつだよ、お前は。」


嘆息たんそくするギルド長ギルマスに言われて、しょうがないなとアルサドが席を立った。



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