第12話 呼び出し

武器屋を出た俺は、ギルドへ向かった。

昨日の大猪ボアの精算と、ギルドに預けている金を引き出すためだ。

親父さんの言葉に甘えるとしても、今払える分はきちんと渡しておきたい。


とは言え、預けた金を全額引き出すのがホリーにバレると、また大変なことになる。

何とかして神の降臨は阻止しなければ。

タイミング良く資料室おくにでも入っていてくれると助かるんだけどなあ。


そんなことを考えながらギルドへ向かっていると、前の方からかごを背負った子供が歩いてくるのが見えた。


「よう、リコル。買い出しは終わったのか?」

「おはよう、ヴェルデの兄ちゃん。もちろん終わったよ。今日はいい猪肉ボア鹿肉ディアが手に入ったんだ。父ちゃんにいつも以上に旨い料理にして貰うから、兄ちゃんも食いに来てよ。」


リコルはよく行く食堂の息子だ。

大猪ボアは早速朝市に回されたらしい。

折角だし狩った獲物を味わっておくか。


「ああ、今日の夕飯を食いに行くから、俺の分を取っといてくれって、父ちゃんに言っといてくれよ。」

「分かった。ちゃんと言っとくよ。じゃあな、兄ちゃん。」


俺の伝言をこころよく引き受けたリコルは、手を振りながら帰って行った。


   ◇ ◇ ◇


ギルドに着いて、買取所うらへ回るとアルサドの姿はなく、ベテラン職員が経験の浅い職員に解体指導をしているようだった。


「おはよう、昨日の大猪ボアの査定結果を貰いに来たんだけど。」

「やあ、おはよう。昨日の大猪ボアはヴェルデだったのか。あんな大物を仕留めるなんてすごいな。」


そう声を掛けると、近くにいた職員のシーツが対応してくれた。


「まあ、なんとかね。お陰で剣がダメになった。」

「それはご愁傷しゅうしょうさま。でも今回の売却でなんとかなるんじゃないか?」

「だといいんだけどな。」

「はい、評価入力したよ。あと、こっちが魔石だよ。」


出された魔石は俺のこぶしより、ふた回りも大きかった。


「…でかいな。」

「あの巨体の大猪ボアだよ。このぐらいの大きさにはなるよ。」


驚く俺をシーツが笑う。

言われてみれば、普通のボアの何倍もあったんだから当然か。

納得した俺は魔石を受け取り、査定結果を腕輪バングルに記録して買取所を後にした。


   ◇ ◇ ◇


ギルドに入ると朝一の大混雑ピークは過ぎたようだが、まだ何人かが手続きの順番を待っていた。


だが幸いなことに、ホリーの姿は無い。


出来る事なら今のうちに手続きしてしまいたいが、カウンターで大金を引き出せば周囲に知られてしまう。

かといって混んでる最中に職員と個室に向かえば注目を浴びてしまい、これもまたホリーに知られバレやすくなる。


食堂兼酒場しょくじどころの空いているテーブルに移動して列を眺めながら、精算と引き出しだけだったんだから、空いた頃に来れば良かったと少しだけ後悔した。


椅子にもたれながら、ホリーをどう誤魔化すか悩んでいると、俺に気付いたリーリィが手招きで呼んだ。


「何かあった?」

ギルド長マスターがヴェルデが来たら、顔を出すようにって。」

「えっ、俺呼ばれる様な事したっけ?」


真顔のリーリィから、ギルド長ギルマスからの呼び出しと聞いて、何か失敗やらかしたかと、覚えの無い記憶を探る。


「昨日の森の様子が聞きたいって。」

「っっ、先にそれを言ってくれ。」


あせる俺を見て、リーリィが笑いながら教えてくれた。

ほんと、俺で遊ぶのはやめて欲しい。


俺は礼を言うと、若干じゃっかん肩を落としながら、ギルド長ギルマスの部屋のある二階に上がった。







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