第11話 side カンセル2

奥にある武器庫そうこに入ると、一番奥の棚にある箱の中から布に包まれた一本の剣を取り出す。

これはわしの友が鍛え上げた渾身こんしん一振ひとふり

小僧やつがもう少し経験を積んでからすすめてやろうと思っていた。


だが、今必要なのだろう。


戻って目の前に剣を置くと、小僧やつの目はその威容いように吸い寄せられ、釘付けになった。


漆黒しっこくさやには月桂樹ローリ加密列カモルが彫り込まれており、名誉と、逆境の際に振るう者の力になるようにとの想いが刻まれている。


「手にとって抜いてみろ。」


言われた小僧やつはそろそろと手を伸ばし剣を取ると、そっとさやから抜いた。


剣の存在感ちからに一瞬息を詰めながらも、無意識に魔力を流し、お互いの存在を馴染ませて行く様子に安堵あんどすると共に、自身の事のように誇らしく感じる。


「やはり馴染んだか。」


だが小僧やつは我に返ると戸惑った様子で訊いてきた。


「親父さん、この剣は一体。」

「この剣は神鉱ミスリル竜骨りゅうこつで出来ている」

「……は?」


えて素材で答えてやると、小僧やつほうけて言葉を無くした。

珍しい様子に素知そしらぬふりをして、さらに詳しく素材の説明をしてやると、状況に理解が追い付いてこないのか、口をぱくぱくと動かすが言葉にならず、しまいには黙ってしまった。


ようやく話したかと思えば、何故この剣を出したかと訊いてくる。お前が望んだからだと答えてやれば、自分には荷が勝ちすぎると返してきた。


わしの目を疑うのか? お前ならこの剣を使える。剣とお前の魔力が馴染んでいるのが何よりの証拠だ。」


そう言ってやると、昔、儂が初めて返事をしてやった時と同じ表情かおをした後、大きく息をいた。


「……はぁ。こんなに驚いたのいつ以来だ? もし使いこなせなくても怒んないでくれよ?」

「馬鹿言うな。わしの目は確かだ。使いこなせなかったらお前の鍛練たんれん不足だ。」


そううそぶ小僧やつに軽くにらんで返してやった。

幾分いくぶん落ち着いたのか、恐る恐る値段を訊いてきた小僧やつに金貨十五枚で答えた。


実際には金貨五十枚は下らない逸品ものだが、小僧やつ相手に金儲かねもうけがしたい訳じゃあないからな。

小僧やつなら分割払あとばらいにしてやることもやぶさかじゃないが、小僧やつの覚悟がどの程度のものか見ておきたい。


ランクを落とすか?」


そう訊きつつも、目の前の剣を選ぶことを期待してしまう。


「親父さん、代金かねを持ってくるから待っててくれ。」


顔を上げた小僧やつは、わしを真っ直ぐ見るとそう言った。


「払えるのか?」

「足りなければギルドに借りてでも用意する。」


なおも問えば、覚悟のこもった眼差まなざしで答えた。


「今払える分だけ持ってこい。残りは稼いで払え。」


それだけ言うと、小僧やつに背を向け手入れに戻った。




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