第10話 side カンセル1

振るう者の手を離れた武器もの、未だ振るう者の定まらない武器ものそれらの武器そいつらを手入れしていると馴染みの小僧やつがやって来た。


「親父さん、魔力通せる剣ある?」


十日ほど前に手入れしてやったばかりの剣があるはずの小僧やつが訊いてくる。


小僧こぞう、この間の剣はどうした。寿命にはまだ間があるはずだ。」


わしの問いに小僧やつは黙って剣をさやごとカウンターに置いた。

作業の手を止め、置かれたさやを手に取り抜くと、剣は中半なかばから綺麗きれいに折れていた。

それを見て言葉にできない苛立いらだちがき上がる。


昔、冒険者きゃく希望のえらぶままに売っていた時期があった。

だが強い武器を手にし、武器の力をちが傲慢ごうまんになる者、過信かしんして格上を獲物として狙い命を落とした者。

金がないからと、それまで使っていた剣より質を落とし、本来なら危なげ無く仕留められる相手に命を落とした者。

そんな冒険者やつら幾度いくども目にし、いつしか本人の身のたけに合う武器ものだけを売るようになった。


そんな昔が思い出され、一瞬感情に飲まれそうになったが、わし重圧プレッシャーに耐え、真っ直ぐに見返してくる小僧やつを見て、わずかな冷静さが戻った。


「何をして折れた。」

「昨日、森で遭遇そうぐうした荷車大の大猪にぐるまサイズのボアを仕留めるのに魔力を通した。」


くと小僧やつはそう答えた。

ガルブの森でそれほどの大猪ボアと言えば、中域から浅奥せんおう辺りの強さだろう。

そいつを相手にするのに魔力を流したのなら、この剣こいつでは強度が足りなかったはずだ。


もう少し魔力の親和性の高いものがいいだろう、と考えながら店の奥へ向かおうとしたところで、背後から声が掛かった。


「今の俺が扱える中で一番の剣が欲しい。」


腕におごったかと振り返り小僧やつを見たが、先程と変わらず真っ直ぐに見返してくるので、訳を目で問うた。


「買うなら今持てる最上の物を選ぶように助言を貰った。」

「…リュネか。待っていろ。」


助言…リュネの夢見ゆめみか。あやつがそう言うのなら小僧やつはこれから大事おおごとに会うんだろう。


店の奥に向かいながら、昔を思い出していた。


小僧やつは幼い頃から冒険者おとなに付いて店に来ては、出ていけと威圧するわしおくしもせず、武器の選び方や手入れの仕方を教えて欲しいと頼んできた。


来るたびに真剣なをして頼み込むのにほだされたのか、ある日、一言だけ言葉を返した。わしが言葉を返すと、小僧やつは驚いた顔をした後、言われたことを口にしながらしばらく考え込み、嬉しそうに礼を言った。


たった一言、だが言われた内容とその意味をわしに聞き返すでもなく、わずかな経験と冒険者おとなたちの教えからみずからで考え理解するのを見て悪くないと思った。

それからは小僧やつおとれるたびに一言だけ答えてやるようになった。



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