第9話 一番の剣

神鉱ミスリルで剣を打つ際に、竜骨りゅうこつを粉にしたものが添加してある。魔力との親和性が最上級の剣だ。」


親父さんは改めて説明してくれた。


神鉱ミスリルは魔素の濃い場所でまれに取れる金属で、金属自体に魔力を内包しており、武具や魔具の素材に使うと、使う際の魔力が伝わりやすく、効果を増大させる。

竜骨りゅうこつはその名の通り、ドラゴンの骨だ。

強靭な体と膨大な魔力を持ち、その知性で魔法をも使う最強の生物と言われるドラゴン。死してもその体には魔力が残り、あらゆる部位が貴重な素材として使われる。


だが俺が聞きたいのはのは素材説明そこじゃない!!


「いや、ちょっと待ってくれ親父さん。確かに神鉱ミスリルなんて使ってるなら魔力の通りは最高いいだろうさ。だが、何でこの剣なんだ!?」

「魔力を通せる一番の剣を望んだのは小僧こぞう、お前だろう?」

「…言った…確かに言った。でも俺は『俺が持てる剣で一番のもの』って言ったよな? こんな立派すぎる剣は俺が持つには早すぎるだろう!? 」


驚きすぎて若干じゃっかん混乱しつつも、さやおさめた剣をカウンターへ戻し、親父さんに言いつのる。


わしの目を疑うのか? お前ならこの剣を使える。剣とお前の魔力が馴染んでいるのが何よりの証拠だ。」


親父さんはそう言って口のを上げた。

その言葉と表情に、俺は大きく息をついた。


「……はぁ。こんなに驚いたのいつ以来だ? もし使いこなせなくても怒んないでくれよ?」

「馬鹿言うな。わしの目は確かだ。使いこなせなかったらお前の鍛練たんれん不足だ。」


気を落ち着けようと冗談めかすとにらまれた。

でも、親父さんが選ぶ剣に間違いは無い…か。


ところでこの剣いくらだ?


良いものがお高いのは世の常識あたりまえ。内心、ブルグの森もりの奥へ入ることも覚悟しながら、恐る恐る値段を訊いた。


「分かった。この剣こいつを貰うよ、って言いたいんだけど、この剣こいつ俺に払える値段?」

「金貨で十五枚。」

「……」


金額を聞いて固まった。

神鉱ミスリルなんて使ってるんだ、高いのは当然解ってた。というか覚悟しているつもりだった。

でも俺が持てる剣として出されたんだから、もう少し優しい値段を期待した俺は、決して悪くはないはずだ。


…俺の全財産はたいても足りね~よ!!!


ランクを落とすか?」


沈黙したまま悩む俺に、親父さんが言った。

そしてリュネさんの言葉を思い出す。


『ヴェル坊、剣を買うなら今手に入れられる最上の物を選びな。』


彼女が言うのはきっとこの剣だ。

であるなら答えは一つだけ。


「親父さん、代金かねを持ってくるから待っててくれ。」

「払えるのか?」

「足りなければギルドに借りてでも用意する。」


俺の目を見て訊いてくる親父さんに、真っ直ぐに見返して答えた。


「今払える分だけ持ってこい。残りは稼いで払え。」


そう言うと親父さんはカウンターの上の剣を内棚うちだなにしまい、背を向け武器の手入れに戻ってしまった。


俺は黙って頭を下げると、代金かねを用意するため店を出た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る