第5話 side アルサド

帰ってきた冒険者達やつらからの収穫物せんりひんの買取作業も大方おおかた終わった。


今日は樹木鹿ツリーディアが丘の方に出たらしく、運良く仕留めた連中が、酒を飲んで盛り上がっている声がここまで聞こえている。

樹木鹿ツリーディアはガルブの森に住んでいて、森から離れた場所で見かけることは滅多にない。

蹴りや噛みつき、角での攻撃の他、魔法で植物を操るから、森であれば仕留めるのに苦労しただろう。

だが丘でならそこそこの魔法が使える仲間メンバーがいれば、比較的楽に仕留められるのだから、連中は確かに運が良かった。


そろそろ若手に任せてあがろうかと思うが、今日はまだ顔を出していない冒険者やつがいる。朝方、何かしらの依頼を受けていたのは間違いなく、いつもなら日が傾き始める頃には戻ってくるんだが。


とはいえ、あいつが簡単にどうにかなるとは思っちゃいない。


あいつはランクこそCだが、未成年ガキの頃から狩りだ採取だと町の外に出ていたうえに、見習いになってからはいろんな専門家やつらに頭を下げて師事していたお陰で、上位の冒険者に引けをとらない知識と技術を持っている。そのうえ剣の腕も良く、魔法も使える。


元ランクAの冒険者だった俺でも知らないような細かな部分まで気をつかい、受けた依頼は常に最上に近い成果でこなすやつだ、いつもより少し遅くなっているくらいでは心配するだけ無駄だ。

何かしらトラブルおもしろいことがあったんだろう。


そんなことを考えているうちに、そいつが戻ってきたのでこちらから声をかけた。


「よう、ヴェルデ。今日は遅かったな。」



森でボアに遭遇したという話を聞きながら、出された物を確認すると、回復薬の材料になるダミ草に、毒消薬になる瘡王クオウ草、飲み薬に使う疼取タドリ草、軟膏に使う黄烏瓜キカラスの実で、薬草は根までしっかりと付いており、どれもいたみの無い最上の状態のものだ。

本当にいい目と腕をしている。

それにボア程度ならこいつにとっちゃしたる相手でもない。


「ほう、ダミ草に瘡王クオウ草、疼取タドリ草に黄烏瓜キカラスの実か。相変わらず状態がいいな。それにしてもボアと遭遇なんて、そいつは災難だったって言うとこだが……お前以外のランクCのやつならな。」


そうめそやすと、満更でもない顔をしてかなりの大物だと告げてくる。


ヴェルデが査定結果を腕輪バングルに記録した後、取り出した大猪ボアを見て、俺はその予想外の大きさに驚いた。こんな大きさの大猪ボアなんて森の中域より奥へでも行かなければお目にかかるもんじゃない。

ガルブの森は広く深い。奥へ行くほど大型で危険な魔物が増えてくる。実際、ランクBでもパーティーを組まなければ、中域には入らない。これは一言釘を刺しておいた方がいいだろう。


「こいつぁ、でかいな。三百トラムはあるんじゃないか? お前、いくら腕があるって言っても、あんまり奥まで独りで行くなよ。」

「いや、奥には行ってないよ。いつもどおり外縁そとで採取してたら大猪こいつが突っ込んできた。」


俺が苦言をていすと、ヴェルデは森の奥ではなく、外縁そとで遭遇したと言う。樹木鹿ツリーディアといい、この大猪ボアといい、森の奥で何かあったか? 念のためギルド長あいつに報告しておくか。

それにしても、遭遇したのがヴェルデこいつで良かった。他のランクCやつじゃ、あっという間に殺られてただろう。ランクBひとつうえのやつでも相性が悪ければ危なかったかもしれん。


「…そうか。これ程の大物だったとは。遭遇したのがお前で良かったと言うべきか。それで大猪こいつはどうする?」


大猪ボアの買取りをどうするか聞けば、魔石以外はいつも通りギルドに売るという。

空腹を訴えるヴェルデに任せておけと告げると、やつは早々に受付へ向かった。


さあ、帰りかけている若手やつらを捕まえて大猪の解体おおしごとを進めるよう指示して、ギルド長あいつに報告に行くか。



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