第3話 幼馴染みとあの人

受付に向かうと、薄紫の髪の見慣れた後ろ姿が並んでいたので声をかけた。


「フィオ、今日はどうだった?」

「ヴェルか。今日は運がなかったのか鬣兎メーネラビットだけだよ。」


振り返った幼馴染みのフィオが苦笑する。

その顔を見て、俺はにやりと笑って否定した。


「いや、そっちじゃなくて騎士団の方。行ってたんだろ?」


俺の言葉にフィオは一瞬固まったが、大きな溜息をついた。


「今日もあの人から一本取れなかったわ。あと少しだったんだけどなぁ……でもお前、なんで今日俺が手合せしたこと知ってんだよ?」


フィオは悔しそうに答えたあと、話の出所に疑問が湧いたようで聞き返してきた。


「門のところで愚痴でも聞いてやれって声かけられた。お前、訓練場そのばにいた連中やつらには口止めしても、交代で出ていったやつには言ってなかったろ。」


そう返すと、フィオは頭を抱えてしゃがみこんだ。


「あぁ~なにやってんだ俺。せっかく黙ってあの人から一本取ってお前に自慢してやろうと思ったのに。」


フィオは昔から肝心なところが抜けてよく失敗するやらかすが、今回もそうらしい。


「まあ、あとで一杯奢ってやるから、とりあえず依頼完了てつづきしちまおうぜ。」


順番が来たので肩をたたいて促すと、がっくりと肩を落としながら受付へ足を進めた。





「二人ともじゃれてないで、さっさとしなさいよ。」


カウンターにいた薄茶色の長い髪の女性、リーリィが俺達に声をかけた。リーリィは俺より五つ上の鍛冶屋の娘で、ギルドの受付係だ。

ランクFみならいの頃から色々と面倒を見てくれてる。


「お帰りフィオ。あんた、また隊長さんに挑戦したの? もう、でたらめな剣で挑むより、ちゃんと訓練に参加させてもらいなさいって言ってるでしょ。」


フィオの依頼完了の手続きをしながら、弟をたしなめる姉のようにリーリィが言う。


「嫌だよ。俺は、俺の剣で一本取って認めて貰うんだ。」


フィオは真剣な瞳で答えると、強く拳を握り締めた。


フィオが言う"あの人"とは、この町の第二守備隊のタリオ隊長のことだ。

俺とフィオは孤児院育ちで、まだランクFみならいにもなれない十一歳じゅういちの時から少しでも多く食料を得るために、二人して町の外に出ては、町のすぐそばで鞭鼠ウィップマウス等の狩りをしていた。

その日は二人して普段狙わない鬣兎メーネラビットを狩ろうとして草原のほうまで行き、五頭の草原狼グラスウルフに囲まれた。

二人して傷だらけになりながらも二頭を倒したところで、一人の剣士に助けられた。それが町の守備隊隊長として任ぜられて来たタリオその人だった。

彼は瞬く間に残った草原狼グラスウルフを切り伏せると、俺達の傷の手当てをしてくれ、草原まで出たことを怒るでもなく孤児院うちまで送ってくれた。


「その年で、なかなか筋が良い。だが無理せず励めよ。」


別れ際、倒した草原狼グラスウルフを全て俺達に譲ったうえ、頭を撫でてそう言ってくれた。

その日から、フィオは彼に認めて貰うことを目標にしている。冒険者見習いみならいを卒業してから度々挑戦しているが、今だ壁は高いようだ。








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