なめてもオッケーな日焼け止め

田村サブロウ

掌編小説

夏のひざしが届かない路地裏。


冒険者のニニギはふだん常連として通う露店で、店のおっさんから奇妙な申し出を受けていた。


なんでも新商品のテストをしたいらしく、商品を試用してくれる人を探してほしいというのだ。


「で、その新商品がこの日焼け止めか」


「スライムとりんごのエキスを使った『なめても大丈夫な日焼け止め』やで。報酬はやるから、使い心地や感想を聞かせたってや」


「日焼け止め、ねぇ」


おっさんから渡された怪しげな瓶を見て、ニニギは眉をひそめる。


怪しい。りんごはいいとして、スライムは日焼け止めに必要あるのかは疑問だ。


「なんや、スライム部分が心配か? 人体に有害な部分は取り除いてあるから大丈夫や。ま、ホンマに大丈夫か確認する意味でのテストやけどな! ナッハッハッハ!」


おっさんは豪快に笑うが、その前の発言からして嫌な予感しかしない。


と、ここまで内心で嫌がってこそみたのの、実のところニニギはこの話に乗る気でいた。


理由は3つ。


まず、いつも世話になっているおっさんの商品を一足先に体験できるのは悪くない話であること。


次に、おっさんがテスト代として提示する報酬がそれなりに多いこと。


そして最後に、『日焼け止め』という商品内容がちょうどいいからだ。


「わかった。俺と、パーティー仲間の彼女で試してみる。海へ行くクエストがあるからナイスタイミングだ」


「あ、なんや? ニニギ、おめーさん彼女いたんか!? いつの間に!?」


「付き合い始めて1ヶ月だ。プラトニックな仲だから猥談とかは期待すんな。じゃ、また」


「あ、おい! ニニギ! もっと詳しい話を聞かせろ~!」


ニニギは試作品の日焼け止めを持って、露店を後にした。




 * * *




一週間後。


露店のおっさんのもとに、商品のテストを終えたニニギが帰ってきた。


「おっさん。『なめても大丈夫な日焼け止め』、感想を伝えにきたぞ」


「おぉ! で、ニニギ。どうやった? 使い心地は」


「日焼け止めとしての性能はハッキリ言ってイマイチだ。過去に使った日焼け止めにくらべて7割ほどしか日焼けが止められてない」


「ありゃ」


「あと、スライムの成分は確かに人体に有害じゃなかったけど、服を溶かす成分が少し残ってた。新調した水着が溶けてるって俺の彼女が怒ったぞ」


「げぇ! そりゃ悪いことしちまったな。報酬に水着の弁償費を上乗せするから、堪忍かんにんな」


申し訳無さそうな顔をしながら、おっさんはニニギに報酬の金貨を手渡した。


「いやぁ、試してみんと商品の問題点ってわからんもんやな。あんがとな、ニニギ! 参考になったわ」


「どういたしまして。ところで試作品のスライム日焼け止め、まだあるなら買いとりたいんだが」


「ん? あるが、なんでや?」


「欲しいから」


「むぅ? 話が見えへんな。なんでほしいんや」




「スライム日焼け止めは、りんごのエキスも使った『なめても大丈夫な日焼け止め』って触れ込みだったろ? テストというからには実際に舐めてみたんだ」


今のニニギの一言はうかつだった。


おっさんに話の主導権を握るきっかけを与えてしまった!




「舐めた……ニニギの彼女も一緒にか?」


「一緒にだ」


「日焼け止めを体に塗った上でか?」


「……まぁ、日焼け止めは塗るものだからな」


「せやな。なんもオカシイ話やないな。で、どうだった」


「りんご味だった」


「日焼け止めの味ちゃうねん! もっと別の話や」


「…………日焼け止めとしてではなく、別の用途での商品なら売れるんじゃないかって思った」


「ほう……で? その別の用途で使えそうな試作品の日焼け止めを、なんのために買おうとしたんや? ニニギ」


「…………おっさん」


「ん?」


「口止め料はいくら欲しい?」


「金はいらん。酒の肴に猥談ひとつあればええ」


「猥談って、もうしてるだろ! ……あぁもう、買うのはまた後にしとく!」


ニヤニヤ笑うおっさんの目を背に、ニニギは露店から逃げ出した。

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なめてもオッケーな日焼け止め 田村サブロウ @Shuchan_KKYM

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