その4

 事務所オフィスに戻った俺は、コーヒーを淹れ、それを持って肘掛椅子に座ると、本田功氏がが渡してくれた”箱”を渡すことの出来そうな人物をリストアップした書類を開く。

 受け取る資格がありそうな人物は、全部で六名である。

①:本田安治ほんだ・やすはる=年齢45歳。功氏の弟の孫。現在は本田氏が相談役をしているコンピューター部品会社の重役をしている。

人柄はいいのだが、情にもろく、いささか騙されやすい感あり。既婚。息子一名あり。

②:松平健一まつだいら・けんいち=年齢55歳。功氏が顧問を務めている物流会社の社長。功氏が同社を興した時に、彼の秘書をしていたことがある。

真面目ではあるが神経質に過ぎるところがあり、部下の些細な失敗も見逃さず、すぐに叱り飛ばすので知られている。結婚歴はあるが妻とは離別。子供が二人あり。

③:徳山和夫とくやま・かずお=年齢50歳。本田氏が一番最初に独立して設立した自動車部品会社の工場で、現在工場長を務めている。

 学歴は工業高校までしか出ていないが、職人としての腕は確か、但し頑固一徹に過ぎ、時に良く社長など上層と衝突するが、自説を絶対に曲げない。

ただ、部下の面倒見は良く、決して憎めない男。

④:遠藤亮えんどう・りょう=年齢40歳。本田氏のグループ企業の中枢といってもいい商事会社の経理部長。東京大学法学部出身。見た目も頭脳も、正しくエリートを絵に描いたような人物。

 ただ、惜しむらくは人の価値判断を数字で決めたがるところがある。上に厚く下に薄い性格。取引銀行の頭取の娘と結婚。一男一女あり。

⑤:川口春美かわぐち・はるみ=年齢39歳。現在中枢の商事会社で、人事部の主任をしている。女性だが、切れ者。些か冷徹に過ぎるところがあるが、仕事だけは出来る。独身。

⑥:国本進くにもと・すすむ=年齢24歳。候補者の中では最年少。グループ企業うちのコンピューターソフト制作会社で、systemエンジニアの仕事をしている。

 能力は高いのだが、無口で、あまり人と溶け込まないタイプ。本田氏の遠縁の息子。


”さて、どうしたもんかな?”

 俺はファイルをめくり、写真付きのプロフィールを声に出して読みながら考え込んだ。

”箱”を受取って、いわばグループ全体の時代を担う人物をこの中から見つけろという。

一旦引き受け、しかももう着手金まで受取ってしまったわけである。

とはいうものの、いずれの人物も、帯に短し、襷になんとやらというやつで、どれを選んでも合格であるともいえるし、不合格だともいえる。

 本田氏は本人達にはそれとなく”箱”の存在については伝えてあるものの、そのために骨肉の争いを起こそうという気配は、今のところなさそうだ。

”これは本人達に一人づつ当たってみるのが一番良さそうだな”

 リストを折りたたみ、コーヒーを飲み干すと、俺は大きく伸びをして、椅子から立ち上がった。


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