第131話 閑話 マリーとの一日
「クロー何してるの?」
「ん、ああ、ゲームだ。ちょっと懐かしいやつを思い出してな。どうだマリーもやってみるか?」
俺の部屋を覗き込んでいたマリーに向かっておいでおいでと手招きをした。
「ふーん。じゃあちょっとだけ。どんなのかな」
マリーは笑顔で俺の傍まで近寄ってくると俺の手元を覗き込んだ。
「これ、スーパーモリコシスターズって言うゲームなんだが……俺の記憶では、大ブームを巻き起こした家庭用ゲームの一つだったはず。それを俺が携帯ゲーム機用で所望したんだ」
「へぇ……」
俺の顔とゲーム機の画面を交互に見たマリーは……
「……クローがやってるから、やってみたいと思うけどボクには操作が難しそう……」
「そっか……」
マリーの言葉を聞いて、ふと前世の記憶がよぎった。
――……そういえば。
俺も、初めてこのゲームをした時は、ジャンプと同時に腕を上げたり、右に走らせようとして身体を右に傾けたりしていたな。思わず鼻で笑ってしまう。
「むぅ、そこ笑うところじゃないと思うよ……」
頬をぷくっ膨らませたマリーがジトっとした目を向けくる。
「すまんすまん。マリーのことを笑ったんじゃないんだ……そうか、操作だよな」
「そうだよ。ボクはどっちかと言うと身体を動かしている方が好きだから……」
そう言ってぴょんぴょんと小さく飛び跳ねるマリー。
ひらひらとめくれ舞うマリーの着ているノースリーブのワンピース。スカート丈が短いからちらちらと白いモノが見える。そんなマリーを見ていたら、
「……ぉ!? いいこと思いついた」
行きつけの女性服専門店で買ったらしいマリーのワンピース。
ウエストにくびれのある可愛らしいワンピースだ。スカート丈が短いがとても良く似合ってるからと店員さんに勧められて買ったらしい。
店員さんグッジョブです。ちっぱいだけど元気のいいマリーによく似合ってる。
――しかし……
マリーはマゼルカナやニワに交じって甘いものをよく食べていても、よく動くからずっと痩せ気味な体型なんだよな。
もうちょっとむっちりしてもいいくらいなんだが……ま、健康的だからいいか。
「いいことって?」
俺の言葉にマリーが不思議そうに首を傾ける。
――マリーはワンピースを着ているからちょうどいい……
「ああ。今から身体を動かしながらゲームも楽しもうか」
「ん?」
マリーはよく分からないといった様子で疑問符が頭の上にいっぱい浮かんでいる。
「まあ、説明するよりも現物を見せた方が早いだろう」
俺はそう言うが早いか、マリーの手を握ると転移魔法を使った。といっても俺の使用空間内に建てた別の建物の中だ。
俺の無駄に広い使用空間、利用しないともったいないからな。
「きゃっ、ちょっとクロー……」
「ほら、着いたぞ」
「ほえ? ここは……?」
マリーがきょろきょろと辺りを見回しているうちに部屋の明かりをつけた。
「ここはシアタールーム。ほら、俺が屋敷の隣に小さな建物を出したのは知ってるよな」
「え、あ、うん」
「その施設の中だ。ほら、目の前に大きなモニター、見覚えがあるだろう?」
「ほんとだ……前にみんなで入った時と同じだね」
「うむ。普通だったらゲームやDVDを見るんためだけの施設なんだけど、今日はもっと楽しめるように使う」
「楽しめる??」
マリーが部屋の中をきょろきょろとして何か尋ねたそうにしているけど、今はゲームができるようにしないと……
「まあ見ててくれ……『我は所望する』」
部屋の中が少し光った後には中央にガラスで覆われたような大きな空間ができた。
「うわ、何か出た……これは何かな?」
マリーが目の前の不思議な空間を眺め首をかしげた。
「ふふふ、マリーそこの中に入ってくれ」
「へ? ここに……」
「そうだ」
「分かったよ」
マリーは不思議そうにしながらも、興味があったのだろう、嬉しそうに頷いてその空間の中に入った。
「……よっと……あ、あれ……普通にすり抜けて入れたけど……クロー? なんともない、よ」
中に入ったマリーは首を傾け俺の方へ振り返った。
「ふふ、前のモニターを見てくれ」
俺の言葉を合図に前面にあった大画面(モニター)にレトロ感溢れる懐かしBGMが流れ出すとともに、ゲームのスタート画面が表示される。
♪〜
「モニターがついた……? すーぱーもりこ、しすたーず?」
「そうだ。スーパーモリコシスターズ。このゲームはマッパ裸王に攫われたもやし王子を筋肉モリコシスターズ助けに行くという設定のゲームでな、横スクロールのアクションゲームと言うものなんだ。
マリーには、その操作キャラクターである筋肉モリコになってもらうのさ。
つまり、その場で歩くと画面のモリコが横に進むし、駆けると走る。ジャンプはジャンプ。登るときは両手を上げれば大丈夫……と思う」
「ん? ちょっとよく分からないよクロー。どう言うこと?」
「分かりにくいか……なら、実際にやった方が早いか。はいスタートっ」
♪〜
モニターに筋肉モリコが登場して、懐かしいBGMが流れ始める。
「ほら、もう始まってるぞ。その場で歩いてくれ」
「え、あ、はい」
わけが分からないといった様子ではあるが、マリーは俺の言った通りその場で歩く。
マリーの足下は運動マシーンのように足下が動くようになっているので普通に歩けるのだ。
「わあ、なんか動いた……動いてる、あはは」
マリーが歩けば画面上のモリコが前に進む。ただ横に少し動いただけなのに、それが面白かったのか、マリーは止まったり歩いたりを繰り返す。
「ほらマリー、早速敵だぞ。グリ坊主がやってきた。うまく敵の上にジャンプして踏んで倒すんだ」
「え、ジャンプ?」
「そう。タイミングが大事。よく見て飛んでみるんだぞ」
「う、うん!」
マリーは敵がのろのろとほふく前進でやって来るグリ坊主をじーっとその場に立ち止まって待つ。
いつでもジャンプできるよう少し屈んでいるマリー。見ていて可愛い。
――ふふふ……
「いまだ。はっ」
ふわっ
マリーがタイミングを合わせてジャンプすると、スカートもふわりと捲り上がり白い下着がちらりと見えた。
――ふむ。
モニター上の筋肉モリコもジャンプしてほふく前進でやってきていた敵キャラのグリ坊主の背中をぺこっと踏んづけて倒した。
「やったっ」
身体全体で喜びを露わにするマリーが笑顔になる。
要領が分かってきたマリーは、再び歩き始めた。
「なかなかうまいぞ」
「……えへへ」
俺は楽しそうに身体を動かしているマリー見て和んでいると、マリーがある場所の前で立ち止まった。
「……クロー。ここはどうすればいいの?」
「あー、それは落とし穴だな。そこは駆け足してからの加速ジャンプをしないと飛び越せない。そこだと加速できないから、モリコを少し戻してから駆け足ジャンプだな」
「分かった。少し戻って、駆け足ジャンプだね」
マリーは顔だけ俺の方に向けてこくりと頷く。
「ちょっと戻って……駆け足……」
マリーがその走ると……残念、ちっぱいだから……あれ、少し揺れてる? マリーのお胸、ちょっと大きくなったのか?
ぷる
――……うーむ。ちょっと揺れてる、と思う……が、俺の願望でそう見せてるだけとも……
「ここだっ、えいっ!」
マリーの身体操作? がうまくいってモニター上の筋肉モリコもうまく落とし穴をジャンプして飛び越えた。
飛び上がった際、マリーのスカートも大きく捲れて白い下着がバッチリ見える。
「やったっ!」
――……おお、なかなかセクシーなパンツを履いているじゃないか。
「ねえねえクロー。このハテナマークがクルクル回ってる箱は何?」
「ん? ああその土箱は下からジャンプして叩くと……ほら出た。ニンニクだ。それを取るとマッチョモリコになれる」
「マッチョモリコ……うわー、ほんとだ。筋肉むきむきになった。いいなあ」
「は? マリーはこのムキムキがいいのか?」
思わずマッチョになったマリーの姿を想像してしまったが、すぐに首を振って否定する。
――そんなのマリーじゃない……
「わたし、筋肉が全然つかないから……ほら腕だってこんなに細いし……」
マリーがふんすっと言って腕に力を入れて見せる。
うん、細くて可愛らしいままだ。
「マリーはそのままで十分魅力的だぞ……」
「そ、そうかな……クローがそう言うなら、このままがいいかな……」
だんだんと声のトーンが小さくなっていくマリー。少し照れくさくなったようで再びモニターへと顔を向けた。
「これで、強くなったの?」
「ああ、マッチョモリコになると一度だけ敵に当たっても大丈夫になるんだ。まあ、元のサイズに戻っちまうけどな」
「へぇ、あ、また何か出たよ。これは?」
「それはニンニクの芽だな。それを取るとマッチョモリコになってニンニクボールを投げれるようになる。
それで敵を倒せるんだ。小石を投げるような仕草をしてみてくれ」
「こうかな……うわっ、何か出た。すごい」
「それがニンニンボールだ。それがあるとわざわざ踏まなくても、敵を倒せるから楽になる」
「ほんとだ。それそれっ、あっ、また何か金色のが出たよ?」
「金色ニンニクは一定時間無敵になれるんだが……あー取り逃したか……」
「だって……何か脚が生えて逃げていくんだもん。ずるいよ」
しばらく眺めていると、マリーは同じ場所でやられて先に進めなくなった。
「クロー……進めない」
しょんぼり肩を落としたマリーが俺を見る。
「そうか、じゃあ俺も参加するかな。これは二人モードもあってな。よっと、妹のガリコだ」
マリーの隣に俺が入ると、モニター上に俺の操作キャラクターが飛び出した。
「わっ、ガリガリに痩せた人だね。それをクローが動かすの?」
「そうだ。よっと、このニンニクもらうぞ」
「え、うん。いいよ。わあ、何、ガリコ。ニンニン取ったら可愛くなった」
「ガリコはニンニク取ると痩せた体型から普通の体型になれる。ガリコはジャンプ力はあるけど、ニンニクの芽を取った時に……よし、あった」
「あ、なんかバウンドしてますね」
「そうだ。筋肉モリコの端から端まで飛んでいくニンニクボールと違ってガリコのニンニクボールはバウンドして、ツーバウンド目で消える。力がないんだ」
「そっか……えへへ、なんか面白い」
「それは良かった。よっと……」
「うわっ、ちょっとクローいきなり何を」
「肩車だ。ほら、モニター上でもガリコがモリコを、担いでるだろ?」
「ほ、ほんとだ……すごい」
「こうやって協力して進めば……よっと、ほらさっきまでマリーが、やられていたところを超えたぞ」
「ほんとだ……えへへ」
――ふふ……
マリーが俺の肩の上で嬉しそうな声を上げた。
むにむに……
俺は俺で、柔らかいマリーの太ももに触れて気持ちがいいんだ。
「クロー、このままもっと進もう……それっそれっ」
マリーが俺に肩車をされたままニンニンボールを投げる。
「あはは、楽しい……」
「いいけど、こらっ、もっと慎重に動かないと危ないぞ」
「大丈夫、大丈夫……ゎ!?」
そう言いつつも少しバランスを崩し後ろに倒れそうになったマリーがガシッと俺の頭を抱き抱えた。
ちま。
俺の後頭部にマリーの柔らかいちっぱいが押し付けられる。
――ふ、ふむ。……これはいい。
「あはは、失敗、失敗」
そう言いつつも降りる気配のないマリーを肩車しながら結局そのまま二人で楽しんだ。
――――
――
「……もう俺の部屋にいるのか?」
シアタールームから戻り執務室で仕事をしていると妻たちの気配が俺の部屋から感じられた。
妻たちの声? なぜかセラが一部屋一部屋しっかりと防音処理してしまってまったく聞こえなくなってしまった。
執務室にいるときくらいは仕事に集中するようにとの計らいだろうが……なんか物足りない。
「ねぇマリー。今日はどうだったの?」
「クローと二人でゲームしたんだけど肩車されちゃった」
「な、なんと」
「……背のある私とセリスさんには無理だわ」
「そうなるな……」
「そうかな……えへへ……でもクローいい匂いだった。思わず頭を抱きしめちゃった」
「おおっ、なんと」
「それで……クローはどうだった?」
「うむ。私も気になるな」
「嬉しそうにしてくれてた。肩車はずっとしてくれてたし口元も緩んでいたから大丈夫だと思う。
クローにもちゃんと癒しを与えれたと思う」
「うむ。主殿は最近、忙しそうだからな……もっと、そ、その、つ、妻として癒してやりたいものだが……」
「そのとおりです。私たちには好きに過ごしていいと言ってますけど、クローはいつも仕事に追われてますからね……
でもセリスさん。私たちは肩車は無理ですから……私、つぎはあれを試してみます」
「なんと! エリザ殿はあれを試すのか。うむ。わ、私も何か試してみたいのだか……」
「えへへ。じゃあ。ボクも……」
「ふふっ。いつも気にかけてくれるクローには、みんなでもっと癒してあげましょう」
「ああ」
「おお」
今日も俺の知らないところで妻たちの会話は盛り上がっていた。
そして、その趣旨が変わってきていることも当然俺は知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます