第129話

 アルをひと睨みしたアンは仏頂面のまま安全部屋へと入り、後ろ手にトビラ閉めた、のだが……


「な、なによこれ……」


 入ってすぐに男性のあられもない姿を目の当たりにして、我が目を疑ったアンは何度も目を擦った。


「信じられない……」


 見てはいけないと思いつつも、興味の湧く年頃であるアンの視線には意識なく横になっている男性たちの下半身に釘付けになっていた。


 15歳の少女には少し刺激が強いものだったが、なんのその。アンは今、思春期まっただ中だ。異性への関心のほうが勝りこれ幸いと下半身を凝視する。


 ――わ、わぁ……へぇ……はあ……ほうほう……はぅ!


 ほんの数秒ほどだが、まじまじと凝視していて、ふとこんな所を誰かに見られでもしたら、破廉恥な女だと思われるのでは、見習いとは言えこれでも聖職者。それはまずい、という思いが過ぎった。


 慌ててアンは誰にも見られてないか、辺りをきょろきょろと見渡す。


 ――大丈夫、だよね……


 顔を真っ赤にしながらも男性の下半身に釘付けになっていた自分を誤魔化すために一度咳払いをして――


「んっ、んん……なんなのよこれ〜信じられない」


 さも今入って来ましたという体を装い驚いた振りをする。


「みんなどうしたのかな〜」


 その言葉は棒読みで、誰かがいればすぐに突っ込まれていただろうが、幸いアンの周りには誰もいない。


 ホッと胸をなでおろしたアンは、危ない、危ないと首を振る。


 ――あれ? でもたしか悪魔さまは……隊長たちは中で寝ているって言ってたよね?


 ふと、そんなことを思い出したアンは辺りを見渡し隊長らしき人物を探してはみたが、ちょっと確認しただけでも目につく男性たちはすべてが若い。


「隊長いないよ……?」


 一人でいることが苦手なアルならば、もうすぐこの部屋の中に入ってくるだろうと思い、男性たちの姿が目に入らないよう気を使い壁際へと移動する。


 ――でもこれって悪魔さまに……ウソつかれたのかな……?


 一瞬だが、そんなことが頭をよぎったアンだったが、すぐに首を振って否定する。


 ――違うよ。私の悪魔さまは、そんなウソなんてつかない……きっと何か理由があって……

 あっ、そうよ。隊長は今この部屋に向かって来ているのよ。うん、そうに違いないよ。


 悪魔クローへの想いを募らせているアンは、悪魔クローの言葉を信じて疑うことをしない。

 適当にそれらしい理由をつけてひとり勝手に納得する。


 敵対関係にあるにもかかわらず、もはや信者と言っても過言ではないほどに悪魔クローを信じていたのだ。


「さてと、じゃあ……隊長が帰って来る前に、取り敢えず状況確認はしといたほうがいいよね……怒られたら嫌だし」


 そう思ったアンは仕事だから仕方ないの、とまた適当な理由をつけて男性たちのほうに振り返る。


 ――うわぁ……


 やはり、思春期でお年頃のアンの視線は若い男性の下半身に向けられる。


「あーもうっ! 見ないもん。見えてないったら、なーんにも見えてない」


 口ではそう言いつつもきょろきょろと辺りを気にしてはチラチラと男たちの下半身を凝視して顔を真っ赤にする。


 男性の下半身ばかり見ておらず、もう少し注意深く辺りを確認していれば、男性たちのすぐに側に脱ぎ捨てられた聖騎士の鎧に気づいていたはずだったのだが、異性への関心の高いアンにはとても無理な話だった。


「見えないったら、なんにも見えな……ん? ……ああっ!」


 そんなアンだが、たまたま、その男性たちの中に女性がいることに気づいた。


 ――二人……じゃなくて三人もいる。


 女性たちの身体にだけなぜか布切れがかけてある。

 アンは不思議に思いながらも注意深く眺めていると……


 ――あれ、あっちのあの子は……ひょっとして、サラ?


 見覚えのある人物を見つけたアンは驚きつつも、心救われる思いでそのサラと思わしき人物に駆け寄る。


 当然、全裸の男性たちに目を奪われながら。


 ――あーあ……これが悪魔さまだったら良かったのに……


 これとは全裸で寝ている男性のことだが、ふとそんな思いが脳裏をよぎる。


 ――悪魔さまの……むふふ。


 アンは上半身裸で逞しくも凛々しかった悪魔クローの姿を思い浮かべては、その姿を全裸の姿へと勝手に妄想変換していく。


 ――ふふ、ふふふ……はぅ!


 その顔はだんだんと残念な方向に緩み始めていたのだが、そんな楽しい時間はすぐに終わりを告げ、気付けばすぐ目の前に横たわった女性がいる。


 少し物足りなさを感じつつもアンはゆっくりと顔を近づけその女性の顔を覗き込んだ。


「あっ、やっぱりサラだ」


 知り合いを見つけて、気持ち的に少し楽になったアンはホッと安堵の息を吐き出すと、今度は手を伸ばし、サラの身体にかけてあった布切れをちょいと摘み少しめくり上げた。


 ――……むう。相変わらずいい身体でずるい……じゃなくて、外傷は……ないね。寝ているだけ、に見えるけど……なんでかな?


 同じ歳なのに、アンよりもずっと女性らしい身体つきのサラを恨めしく思いつつも、そんなサラを眺めていれば、次から次に疑問が湧いてきた。


「じゃあ……あっちの二人は誰?」


 この隊の女性聖騎士は自分とサラの二人しかいない。


「うーん」


 首を捻りつつも取り敢えずサラを起こせば何か分かるかもしれないと思いサラの身体をゆっくり揺らす。


「サラ〜」


「ん、んん……」


 身体をゆっくりと揺らせば、女性らしいサラのおっぱいもゆらゆら揺れてちょっと腹が立ったが、すぐにサラに反応があった。


「ほら、サ〜ラ〜。起き……ぃ?」


 その時だった。部屋のトビラがガタガタと揺れたので、すぐに反応して立ち上がれば、バーンッと大きな音を立てて涙目のアルが入ってきた。


「アンっ! 置いていくことないだろ……しかもこのトビラきつくて、カギかけられたかと思っ!? ……な、な、なんだこれっ!」


 そんなやかましく入ってきたアルだったが、アンの姿を探すように見渡した結果、アン以上に驚き、


「だ、誰だこいつら。おい、お前ら裸で寝てるなんて信じらんねぇぞ!」


 うるさく騒ぎ始めた。


「あぁぁもうっ。アルッ! うるさいっ」


 アンも先ほどの件もあり、うるさく騒ぎ始めたアルに怒りの声を向ける。


 すると、静かだった部屋の中は一変して裸の男性たちがうめき声を上げながらゆっくりと上体を起こし始めた。


「ん、んん〜」

「う、ううっ」



 ――――

 ――


 ――あ〜……なんかうるせえな。


 周囲のざわつきに目を開けたラグナだが、目に入った迷宮の天井を見て、すぐに自分の身に起こった出来事を思い出した。


 ――!? たしか俺は……


 上体を起こせば何事もなかったように起き上がれる。


 ――?


 不思議に思いつつも、ラグナはすぐに自身の両手や身体を確認するが、赤黒く腫れていた肌はどこにも無い、どころか、凶魔との戦闘で負っていたケガらしいものも見当たらない。

 さらに気のせいではすませることができないほどに自身の身体が若々しく感じた。


 ――これはいったい……ん!?


 周囲からは依然として部下たちの騒がしい声が聞こえてくるが、それよりもラグナは、すぐ近くにで同じようにラグナを眺めてくる若い女性のほうが気になった。


 ――セイル様……いや、セルシア隊長……

 そうか……俺はあのまま力尽きて、ここは黄泉の世界への入り口か……


 ラグナの目から涙が溢れ出すが、ラグナはそれを拭うことなく、その女性を瞳に焼き付けようとじっと眺めつづけた。


 ――幻でもいい。俺はあなたにお逢いしたかった。


 ――――

 ――


 元々、ラグナはセイルと同じ聖騎士隊の中で活動していた。とは言ってもラグナのほうが後に入団しセイルと同じ部隊に配属された形だったのだが、その当時からセイル、いやセルシアはラグナの配属された分隊の分隊長を務めるほど強くて美しい女性だった。


 そんなセルシアに強い憧れと淡い恋心を抱いたラグナは、早く強くなっていずれはセルシアと肩を並べて活動したいと思っていた。


 だが、ある日のことだった。セルシアを含むごく少数の聖騎士たちのみが極秘任務を言い渡された。


 当時17歳でDランクだったラグナに声がかかることはなかったが、その任務に赴いた少数の部隊は忽然と姿を消し、大司教からは悪魔に殺されたとだけ関係する部隊にのみ通達された。


 教団本部に残っていたBランク以上の実力者たちが集められていた部隊だっただけにラグナにはとても信じられなかった。


 だが、それと同時になぜそれほど凶悪な悪魔を相手にして一個中隊で当たらなかったのか、わざわざ隊を分けてラグナたちを別の悪魔討伐へと回したのかと色々と疑問もあり、その時は、弛んだお腹を揺らし平然としている大司教と、その悪魔に対して強い怒りを覚えたラグナだった。


 それからというものラグナは、荒れに荒れ、悪魔と見れば見境なく斬りつけ、問答無用で叩っ斬った。

 それは命令違反で懲罰を受けようが変わることなく斬って斬って斬りまくっていた。


 そんなことを繰り返しているうちにラグナは最年少22歳の若さでSランク聖騎士となっていた。


 だが、その反面、司祭の指示を聞かない問題のある聖騎士としても知られるようになっていた。


 そして、とうとう27歳の時には厄介者や問題児が行き着く左遷先だと有名だったセイルの率いる騎士団へと配属になった。


 ラグナはそれでも別に構わなかった。悪魔さえ狩ることができるのなら……


 ラグナは当然にセイルの部隊でも好き勝手やった。

 そう、ラグナがセイルの正体に気づく四年前のあの時までは……


 セイルは三年ほど前まで正体不明の呪いに苦しめられていたが、その呪いには効果が弱まる時間帯があった。


 だが、その時間帯は一時的に女性の身体へと戻る時間帯であるが、セイルにとって心身ともに激痛に苦しめられる時間帯でもあった。


 そんなことなど知らないラグナは、そんな姿を晒したくないセイルが入室禁止の札を立てかけているにもかかわらず、それを無視し、悪魔討伐の報告のために勝手に入室したことで女性の姿となったセイル、いやラグナが死んだと思っていたセルシアと偶然にも再開した。


 驚きはしたが、それ以上に再開できた喜びが勝り、勢いよく当時のことを問い詰めたラグナだったが、セイルは極秘任務のことはおろか、聖騎士として活動していた以前の記憶すら忘れていた。


 セイル自身は悪魔討伐で負った後遺症だと、主治の司祭から聞いているらしく、記憶がなくても聖剣術の使えたセイルは何の疑念も抱くことなく、また、その大怪我の後に検査した結果、結界魔法の適性が発現していたことが分かり司祭に叙階されたのだと言う。


 あとになり、セイルは悪魔とは違うなんらかの呪い受けていることに気づいたらしいが、強力な呪いのため手の施しようがなく、さらにセイル自身は自分が男なのか女なのか、その区別すらつかなくなっていた。


 そんなセイルをラグナは心から支えたいと思い、いつかその呪いを解いてあげたいと思っていたのだ。


 だが、ラグナがそう思うだけで、なんの手がかりも掴むことができず、ついに一年ほど前からは、呪いの進行が早くなりセイルは女性の姿に戻ることがなくなり、今度は体調を崩すようになった。


 それでも並外れた聖力でカバーしていたので、部下たちの前では、そんなことは微塵にも感じさせるセイルではなかった。


 ――――

 ――


 そんなセルシアの若かりし姿がすぐ目の前にある。懐かしくなったラグナは思わず彼女の名を口にしていた。


「セルシア隊長……お逢いしたかったです」


 ――幻でも有難い。俺が望んだから……最期に部下や彼女の姿が現れたんだな……いや、もうそんなことどうでもいい。


 触れることはできないとは思いつつもラグナはセルシアに近づき抱きしめた。


 むにゅ


 ――あ゛ん?


 あまりにもリアルな感触に、ラグナの背中に冷や汗が流れた。

 ラグナは彼女をもう一度確認しようと震える手でその両肩を掴み少し引き離した。


 ――セルシア隊長を……つかめる!?


「ラグナ。どうやら私たちは生きているようですよ」


 にっこりとするセルシアの笑顔が眩しい。


「な、な……」


「隊長。いい加減私たちの声を無視しないでください。それに裸の女性に突然抱きつくのはどうかと思いますよ」


「いやぁ、隊長もちゃんと女性が好きだったんですね。私はてっきり隊長は男色家でセイル様のことが……」


「おお。ラーズ、お前もそう思ってたのか……」


「なっ、ソート、ラーズ!?」


 ラグナのすぐ側には、にやけ顔のソートとラーズがおり、セイルの裸を見せたくないラグナは慌てて側に落ちていた聖騎士の鎧をセイルに押し付けると、向こうの方からはガラルドとアクスの声が聞こえてきた。


「なあ、アクスよ。なんか胸が一つ増えてるんだが、なぜだと思うか?」


「し、知りませんよ。前に言ってた呪いが解けたんじゃないですかって、が、ガラルドさん。いい加減前を隠してください」


「お前、何赤くなってんだよ。そうか、やはりお前もそう思うか……」


「い、いいから隠してくださいって……」


「まあ、待てって……」


「あー、もう。これ、ガラルドさんの鎧です」


「え、あ、おう」


 ――――

 ――


「――まとめるとこんなところだが……やはり、俺たちは一度死にかけたのは間違いないな」


 聖騎士の鎧を身につけた皆の話を総合し、そう結論づけたラグナの顔にはずっと眉間にシワが寄っていた。


「信じがたいですが、そうなりますね」


 続けて口を開いたセイルの他にも誰もが腕を組み真剣な表情を浮かべていた。


 それもそのはずだ。部下たちが胸を突く姿を確認しラグナ自身も胸を突いた。それは間違いない。死んだと思っていた状況が気づけば何事なかったかのように一変していた。


 さらに不思議なことにセイルとガラルドの呪いが解けており、皆が二十代前半の姿をしているのだから……


「いいか。呪いのことは他言無用だ」


 ラグナが皆に念を押す。


 ガラルドの呪いも強力な悪魔からのものではあるが、遺伝的に発現していたため、簡単に解呪できるものではなかった。


 さらにセイルの呪いについては悪魔からのものではないにしろ、今でもその詳細が分かっていない。


 その結果、セイルは今まで通り男性(セイル)として通すようにしようとラグナはもちろんのこと、状況を聞いた皆がそう判断した。


 その理由として、これが誰かの仕業でセイルにかけられたものだとして、その呪いが解呪されていると知られると非常にまずく、またその呪いを、いやそれ以上の呪いを施されるとしたら、解呪どころか命の危険だってありえると、あれこれ考え出したらキリがなかったのだ。


「でも、ほんと信じられませんね。セイル様とガラルドさんが実は女性だったなんて」


「俺は別に隠してなかったと思うが、カイル、お前たちとはまだ日が浅いしな……」


「そう、ですね」


「まあ、実際、この呪いを俺で断ち切ろうと思い、女を捨て聖騎士の鎧も男物にしてきたわけだし勘違いされても仕方ねぇか。なあアクス?」


「な、なんで私に振るんですか……」


 カイルの問いに少しトゲの取れた感じのガラルドが、アクスに視線を向けたかと思えば背中をバーンと叩いた。


「いたっ!」


「痛かねぇだろ、鎧の上だしよ」


「いやいや、ガラルドさんのは内側までくるんです。すごく痛いんですから……」


 ガラルドとアクスは二人でなにやら話し始めたので、呆れた顔のラグナはアンとアルに視線を向けた。


「それで、お前たち二人は、よくこの部屋まで辿り着けたな」


「お、俺は……」


 気まずいそうにしたアルがアンに視線を向けると、


「なんだ、どうした?」


 ラグナが不思議そうにアンに視線を向けた。


「そ、その。わ、私は凶魔に襲われて死にかけていたところを悪魔さ……悪魔に助けられてここまで連れて来てもらいました。

 アルもそうです。ただアルはケガが酷くて、この部屋の前までは寝ていました……」


「なに!」


「それは本当ですか?」


 悪魔と聞いて心配したセイルの問いにアルはコクリと頷き答えた。


「は、はい。俺凶魔にやられて意識が遠くなってもうダメだと思ったけど……気がついたらケガもなくこの部屋の前でした」


「そうか……」


 再び皆の視線が詳しく話せとばかりにアンに向けられた。


「け、契約したんです。でも実際は対価なんて払うことなく、連れて来てもらって……」


「悪魔に限ってそんなはずはないだろ」


 そう言ったラグナの言葉に皆が頷き肯定する。ただ助けてくれた悪魔クローのことを悪く思われたくないアンは必死に考えた。考えて――


「本当です。あ、そうだ。悪魔さ……その悪魔は凶魔を退治してました。

 そして黒い水晶を踏み潰して、これが悪魔を狂わせていると言っていたんです」


 凶魔を退治していたことを伝えた。


「悪魔が凶魔を、そして、黒い水晶は踏み潰した……」


「はい。その悪魔さ……悪魔は凶魔のことをこいつは悪魔くずれだって言ってました」


「凶魔は悪魔くずれ……」


「セイル様、確認します」


 そう言ったセイルの言葉を聞くや否や、ラグナは聖力で包んでいたはずの黒い水晶を探した。


「……セイル様。我々が凶魔を討伐した証にと取っていた黒い水晶が一つも見当たりません」


「そう、ですか……悪魔を狂わせる黒い水晶……たしか凶魔も赤黒い肌をしてましたね……」


「「「「!?」」」」


「……」


 そこで、誰もがこの不可解な現象を起こした人物が、その悪魔なのではと一つの可能性を導き出したのだが、結局は敵対関係にある自分たち(クルセイド教団)を助ける理由が分からず、誰もがそれを口にすることはなかった。


「どうやら、支部で保管している黒い水晶は早々に処分した方が良さそうですね」


 何やら思い出したらしい、アンとアル以外の皆が顔色を悪くしてすぐに肯定した。


「本部に一つ送っていますが、大丈夫でしょうか」


「それは分かりませんが……あれは危険です。もし手元に戻せるようでしたら戻してみましょう。

 それよりも、いつまでもここにいるわけにもいきませんし。帰りましょうか」


「そうですね」


 こうしてセイル率いる聖騎士団は無事にドの迷宮から帰還し、凶魔討伐が完了した旨をギルドに伝えた。


 ――――

 ――


 もうお気づきだろうが、クローはセイルの呪いを解こうと元の状態へと所望したのだが何故だか若返ってしまった。


 だが、細かいことなど気にする気もないクローは呪いが解けておっぱいも見れて大満足。だが、そこでふと一人だけ若返ってしまったことを少し不満に思った。


 少し悩んだクローは、みんな若くしてしまえば問題ないだろう、と結論付け、もともと若いサラとカイル以外のラグナ、ソート、ラーズ、ガラルド、アクスも同じくらいの年齢まで若くしたのだった。


 だがしかし、クローのこの行動が、結果として功を奏す。


 それは、凶魔討伐に向かったセイル率いる聖騎士団が若くなって帰還したことで、ドの迷宮には若返りの水が湧き出ていると噂されるようになり勝手に人気を集めることになったのだ。


 とんでもない集客に感情値は増え不純物ポイントもわんさか増える。


 グウと二人笑いあったクローは、それが嘘だとわかりハンターの数が減ることを恐れ、本当に若返りの湖を創った。


 しかもグウとクローにとって都合がよいものを……


 それは警戒しながら進めば一日かかる距離。五階層辺りに一日一回だけその水を飲めば三ヶ月分くらい若返るというもの……看板もしっかりと立てた。


 つまり十年分くらい若返りたかったら四十日ほど泊まる必要がある。

 もちろん、持ち帰ろうとすれば、その水は消えてなくるというものにした。


 凶魔が出た後だから、しばらくは迷宮に潜る人族などいないだろうと半ば諦めていたクローとグウだっただけに、その予想外の結果に喜びを分かち合い、ドの迷宮はさらに人気を集めることになるだが、これはもう少し先の話である。

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