第124話
『人族いた。九人いる』
――『そうか』
グウに不純物ポイントを消費してもらって全ての安全部屋を確認してもらったのだが、三階にある安全部屋で人族を確認できたと言う。
ただ、そこに憑依されてそうな悪魔くずれの姿や、邪魔族らしき姿は見当たらないとグウが申し訳なさそうに言った。というのも、安全部屋では気配を感じることができないため、グウがモニターを見て確認するしかないだ。
――その人族の中にいてくれると楽なんだが……無理だろな。そもそも人族にも憑依できるのか? はあ、まあいい。やはり早めに迷宮の外に出て一度気配を探ってみるしかないか。
「おいっ」
俺は尻尾に巻き付けているアンへと視線を向けた。
「は、はひぃ!」
不思議そうに口をぽかんと開け、ぼーっと俺を見ていたらしい彼女は、まさか、俺から話を振られるとは思っていなかったようで、彼女からの返事はうわずった声になっていた。
「……お前たち聖騎士団は、この迷宮に何人で挑んだんだ?」
「え、あぁ……ちょ、ちょっと待って……」
焦る様子が見てとれる彼女は、すぐに自分の両手を広げ、聖騎士団員の名前らしきものを呟きながら、一本一本指折りながら数え始めた。
それを何度か繰り返し、確信を得たらしい彼女は、にんまりとしてから口を開いた。
「十人よ。私を含めて十人」
「ほう……それは間違いないのか?」
「間違えるわけないよ。これでも私は、セイル様が率いる聖騎士団の一員だもん。見習いだけど……」
何度も指を折り数えていたのはなんだ、とは言わないでおいてやろう。
俺がこの迷宮に入った時には、すでに聖騎士以外に人族の気配はなかった。グウもそう言っていた。
――ここに二人いるから、合わせると十一人か……ふむ。一人多いな。
「……そうか」
彼女のおかげで、安全部屋にいる人族の一人が、邪魔族が憑依した人族である可能性が出てきた。違うかもしれないが確認はしておくべきだな。
「私、エリートだもん。へへ」
彼女の言葉を聞き流しつつ前に向き直ると、ひとりほくそ笑む。
――ふふふ……ヤツだったら、今度は逃さん。
「これは情報料だ。受け取れ」
気分が良くなった俺は、彼女に向かってダメージを吸収(半減させる)する軽減の指輪を放り投げた。
見た目も小さなピンクの魔石が一つハマっている、どこにでも売ってそうな、シンプルな指輪だ。
「え? わ、わ、わあ……ぁ」
もちろん彼女以外が身につけたところで、その能力が発動されることはなく、ただの装飾品としての指輪にしかならないよう細工はしておく。
「……」
なんて言うか、軽く放り投げたのに、彼女は、指輪を掴み損ね軽減の指輪が地面に転がった。
「あははは……落としちゃった、よ?」
あざとく首を傾げる彼女を無視して彼女の手が届く位置まで尻尾を動かす。もちろん自分で拾わせるためだ。
「むぅ……自分で拾えってことね。オケーオッケーよ……ほえ!? ……ゆびわ? 指輪だよ。これって、ふふ、うふふ……」
渡した俺が言うのもなんだが、彼女は見習いだが一応は聖騎士だ。
それがなんだ。彼女は、悪魔である俺から受け取った指輪を、キラキラした瞳を向けたかと思えば、何の疑いもせず、自分の指にはめてしまった。
「おいおい俺は悪魔だぞ。少しは疑えよ」
「……え? あ、あはは。そうだよね。でもさ、こんな状態だから、疑ったところでどうすることもできないよね?
……で、これは私をモノにしたいという意思表示で、婚約指輪のようなものよね?」
「ぶふっ。違うわっ」
「そんな恥ずかしがることないよ……」
「いやいや。俺にはちゃんと妻が三人いると言ってるだろ。それは軽減の指輪だ。受けたダメージの半分をその指輪が吸収してくれる。
弱っちいお前にくれてやるんだ。部隊に関する情報は漏らしたらまずいんじゃないのか? 隊員の人数はそれに該当するのか俺は知らないが、それはその対価だよ」
――先ほど置いてきぼりにしたお詫びのつもりでもあるんだよな。言わないけど。
「え! ぁ、ぅ……漏らしたらまずい情報……」
俺がそう言うと、両手で口元を押さえた彼女の顔色がみるみるうちに青くなっていく。
どうやら彼女は何も考えていなかったらしい。
――……はぁ『グウ、その安全部屋まで案内してくれ』
『ん。分かった』
元気が戻ってきたかと思えば、また肩を落としてしょんぼりしているアン。忙しいヤツだ。
――――
――
グウに案内され、三階にある安全部屋まで、あともう少しというところで――
『ん? ……クロー、もっと急ぐ』
異変に感づいたらしいグウからそんな念話が届いた。
――『なんだグウ。何かあったのか?』
『安全部屋の中の様子が……あ、人族の一人が部屋から出ていく』
――『何!』
グウからの念話の後に、おかしな気配を察知した。
どうやらその気配は安全部屋から出てすぐに迷宮の外を目指して動き始めたようだ。
「この気配は!? ふはは、俺は覚えている。邪魔族だな、邪魔族が安全部屋から出てきたんだ! おい、お前はここでっ」
「いやっ! 置いていかないで」
俺が何を言うのか察したらしい彼女が、俺の尻尾にしがみつきながら必死に首を振る。
先ほどの置いてきぼりがよほど堪えたらしい。
「しかしなあ、もう悪魔くずれはいないわけだし」
「お願い。なんでもする。悪魔様の邪魔もしないから」
――こんなことを言い合っている場合じゃないんだが。
幸い邪魔族の奴は、悪魔くずれに憑依していた時よりも走る速度が遅く感じる。
「なんでもって言葉を悪魔に向かって使うなよ。あー、もう。吐いたって知らねぇからな」
「うんんん……ぎぁぁぁぁぁ」
俺は彼女からの返事を聞くが早いか、邪魔族の気配に向かって全力で駆けた。
――――
――
「いたっ! 邪魔族だ」
多分、地下二階層辺りと思う。しばらく全力で駆けたところで、ヨロヨロと走る人族の後姿を発見。
――ふふふ、もう逃がさねぇ。
その差はみるみる縮まり、人族の首根っこに掴まっている小さなスケルトンをも捉えた。
「んん、なんだガラガラうるさ……いぃ!?」
わざわざ話しかける義理もないので、奴が、物音に気づき後ろに振り返ったその時に、相手の頭をがしっと掴み、そのまま地面に叩きつけ押さえ込む。
「捕まえた、ぜ!」
高ぶった感情が邪魔をして、手加減できなかった。
ちょっと力を入れ過ぎたらしいその威力は、地面を陥没させるほどのものだった。
ハンターらしい男は見るも無残な状態になっていたが、彼は俺がヤった訳じゃなく、元々死んでいたようだし、悪魔規約には反しない。
「いるんだろ邪魔族、出てこいよ」
そう、声をかけるが一向に出てくる気配がない。それどころか、邪魔族の気配がみるみるうちに弱々しいものに変わっていく。
「へ? ウソだろ」
俺は手を突っ込み、それらしい物体(首根っこにいた小さなスケルトン)を引っ張りだしてみた。
「こ、これは……」
――弱い。弱すぎる。もう死にかけている。
小さなスケルトンの全身には、小さなヒビがたくさん入りっており、あと少しでも衝撃を与えれば粉々に砕け散ってしまいそうなほどボロボロになっていた。むしろ生きていたのが不思議なくらい。
「ちっ、少しは話を聞きたかったところだが、面倒だしもういいや」
俺が邪魔族を処理してしまおうと、左手に魔力を集めたところで、周りの空間が色あせる。
――う、動けん。
すべての音が止み静寂が訪れる。俺は指一本すら動かすことができなくなっていた。
周りもそうだ、動いてるものなど何一つない。
――こ、この感覚……見覚えが、ある。
【そいつ(邪魔族)処理しないでくれる】
――やっぱり。
その悪魔の声は悪魔神様からのものだった。
【君と話をしてから、邪魔神をどう料理しようか考えていたんだよね】
――えっと、それって俺に関係ある……ありますか?
【まあまあ。そんなこと言わずにちょっと聞いくれよ。
アイツも一応神だからね。殺せないんだよね。
でもアイツには僕に楯突いたことを後悔させてやりたい】
――そ、そうか……それはまた……
悪魔神様らしくいい性格してますね。と頭の中に一緒だけ思い浮かんだがかぶりを振って振り払う。俺だってやられたらやり返すもんな。
【ふふふ。そうなんだよね。それで……あ、そうだ。君と話していたらいいこと思いついちゃったよ僕。うん、そうしょう。
ということでその邪魔族はさ……大した力もないようだし、君の使い魔にでもしてみる? いや、してみてよ、ね。使い魔にすれば、魔力も増えるだろうし面白いと思うんだよ】
――はあ? なんで俺がこんなムカつくやつを……です。
【絶対面白いって。僕さ、邪魔神の奴を丸裸にしてやることに決めたんだ。邪魔神の手足を全て奪いとるの】
――……え。
【あれ、その顔……よく分かってない? 邪魔神の手下を殺さずに全て僕の配下にするんだよ。
幸い、死にかけた邪魔族はいるけど、まだ生きているし……結構な数の悪魔が悪魔くずれにされて悪魔の数を減らされたからね。その代わりにもなる。
くくくっ、な、面白いだろ。送り出した配下が僕の配下になって奴を取り囲むんだ。ふふ。
もちろん僕は中途半端が嫌いだからね。奴の配下は全て奪うつもりだよ。元配下に取り囲まれる奴の間抜けな姿。想像しただけでゾクゾクするね】
――そ、そうだな。そうなったら楽しいだろう……ですね。
あー、でも邪魔神ならすぐに新しい駒を作れるんじゃないのか? 神だし……
【なかなか鋭いね。でも、さすがに魔力がほとんど残ってない今の邪魔神ひとりでは何もできないさ】
――へ? 俺はてっきり、悪魔くずれも結構いたし、どんどん感情値は奪われ、邪魔界の方に流れてしまってるから……あれ、奪われているのは感情値だな。魔力じゃない……
【ヤツは奪ったそれで僕と交渉するつもりだったようだけど、僕がそんなことされて言われるがままに交渉すると思うのかい?】
――……あー、そうだよな。たしかに俺でも許せないわ。(な、なんか声のトーンが低くなってきてないか……)
【ふふふ】
――で、でもさ。邪魔族の数もまだまだ多いんだろし、そんなに簡単にいくものなのかね?
【んー、そこは君たちに頑張ってもらうさ】
――えっ……
【くくくっ、さてと、方向性も定まったことだし早速教育でもしてこようかな。
捕虜にしている奴らには立場ってものを理解させてやらないとね。くくく、忙しくなるぞ】
――あれ、今、変なこと言ってなかった?
【ん? 教育は教育さ。邪魔族は暴食が過ぎるからね。
そのせいで邪魔界域が滅びかけているんだし、その辺の意識改革は特に重要だよ。種族は邪悪魔族ってところかな。くふふ】
――いや、そんなこと聞いてないんだが(あー、聞きたくねぇ、なんで機密情報らしきものを俺に話すんだよ)
【あー、でも邪悪魔族を駒として使い始めたら、悪魔族の中には、邪悪魔族を勝手に格下だと判断して顎で使いたがる愚か者も現れるだろうね……んー別にそれはそれで……面白いか】
――面白い?
【僕は使える面白い奴が大好きなんだ。だから使える邪悪魔族は、悪魔族と同等に扱ってやるつもりだよ。
ぷくく。これは邪悪魔族を、顎で使おうと考えていたおバカな悪魔ほど焦るだろうね。くふふ】
――な、なぁ。それって、俺に話していいの……ですかね?
【いいさ。どうせ君は、邪悪魔族なんて使うつもりないだろう?
まあ、君のところは、他にもなかなか楽しませてくれていい感じだけど】
――へ? 良く分からんが。たしかに俺は今のままで満足している……ぞ?
【そういうことだから。とりあえず。そいつは使い魔にでもしといてね。
君には後で、もうひと働きしてもらうつもりだから準備しておくように。じゃあね】
――え!? 準備ってなんだよ!
俺が言い返す間もなく世界に色が戻ってくる。
「はぁ、仕方ない」
『ん。クロー急に元気無くなった。大丈夫?』
――『あ、ああ。大丈夫だ』
俺は素早く悪魔スキルを使うとぎゅっと拳を握りしめて、自身の血を数滴、小さな骸骨に垂らした。
『おい。お前の名は……コツンだ。使い魔のコツン。死にたくなければ返事をしろ』
悪魔神様には、こいつを使い魔にするように言われたが、邪魔族にもプライドってモノがあるだろうから、素直に返事なんて返ってくるはずもない。この契約は失敗すると思っていたのだが、
『あ、主は強い。コツン……気に入った』
――え?
元邪魔族のコツンから、俺の思惑に反してあっさりと使い魔になるという強い意志が伝わってきた。
『コツンは主に従う』
俺の血と魔力を得たことで使い魔となったコツンは、額部分に、俺の使い魔である証、960というナンバーが浮き上がり、全身のひび割れが綺麗に消えていた。
『そ、そうか……よろしく頼む』
不本意ながら、元邪魔族のコツンは俺の使い魔になった。
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