第114話

「ニワの迷友か……何度も言うが俺は悪魔だぞ。悪魔の俺に何か依頼するとなれば対価が必要になる」


「対価のぅ……うむ……それは、今のワシとお主のような関係でも良いのか?」


 少し考える素振りを見せたニワだったがすぐに、そう切り返してきた。


「それは……俺としても有難いな」


 そうなのだ。せっかく好き勝手に過ごせるようになったのに、シュラルの奴があんなこと言うから、みんなの格が気になってしょうがない。


 ――早めに俺とみんなの格を上げて……あれを導入すれば、気がねなく海に行けるんだよな……


 ちなみにあれとは、人族の〈願い声〉に反応して対応してくれる代行悪魔(蚊のような見た目の小悪魔)レスキートを派遣してもらうこと。

 派遣費用(感情値での支払い)はかかるが、レスキートは願い声の源である人族の昂った感情を吸い出して抑えてくれる。でも吸い出した感情値はレスキートの取り分(チップ)となるが。


 この先ずっと〈願い声〉の対応に追われる毎日じゃスローライフにならないし俺は完全な休みが欲しいのだ。


 ――やっぱりブラックだよな……


 でもこの代行悪魔は支配地持ち悪魔には不人気のシステムらしい。

 導入期間が長ければ長いほど割引率が上がりお手頃感情値で利用できるようになるらしいのにな。


「うむ。そうか、そうじゃのう。ちょっと待つのじゃ……」


「? ああ」


 そう言うが早いか、ニワの目の前の空間に半透明のモニターが突如現れた。


 ――おぉ。


 その不思議なモニターに興味を惹かれ、覗き込んでみたが意味不明な記号が並んでいるだけで何が書いてあるのかまったく理解できなかった。


「変な記号だな。これはなんて書いてあるんだ?」


 変な記号を指で差しつつ尋ね見たニワの顔はドヤ顔だった。

 ドヤ顔でにまにまと口元を緩めている。


「なんじゃ、お主には読めぬか? かーっかっかっ。そうか、そうかお主は読めぬのか」


 満面の笑みを浮かべたニワは、きな粉まみれの手のままモニターに触れると手早く操作を始めた。

 自慢したいだけで教える気はないらしい。


 ものの数秒で、その操作を終えたニワが、そのままモニターを眺めていると、すぐにぷにゅんと何かを知らせる効果音が聞こえてきた。変な音だ。


「うむ」


 ニワが再びモニターに触れて何やら確認している。


「……ほう、喜ぶがよい。グウはワシと同じように感情値とやらを提供する程度なら構わないそうじゃぞ」


 ――ほう、これは僥倖だな……


「ならば俺も問題ない。ニワありがとな」


「うむ」


 すまし顔で返事をしたニワだが、なぜか嬉しそうにしている。

 ニワのツインテールがピョコピョコ動き耳まで真っ赤になった。照れてるのかね? なんか可愛いな。可愛そうだから突っ込まないけど。


「……それで俺はどうすればいいんだ?」


「……そうじゃの。ワシがお主を迷流便(メイルびん)という迷宮魔法で送ってやるのじゃ。

 帰りはお主がゲートとやらを設置して使えば問題ないじゃろ?」


「なるほどね……」


 ――上手くことが運べばだろうが、まあ、何か問題があっても俺は転移魔法で戻って来れるし、大丈夫だろう。


「……分かった。それで……その迷宮魔法はいつでも使用可能なのか?」


「う、うむ……そ、それがじゃのぅ……迷宮魔法の使用には……ポイントがじゃのぅ……その、のぅ……」


 急に小声になって俯いたニワ。何やら呟いているが、その声は小さくて聞き取りづらいが、


「ん? よく聞こえないが……ポイント? なんだ不純物ポイントが足りないのか?」


「ギクッ」


 身体をビクつかせたニワ。図星だったらしく身体を小さくする。


 ニワとハの迷宮に何かあればこちらに感情値が入らなくなって俺が困ると思い、結構な量の不純物を定期的に送ってやっているのだが……


 ――こいつ、いったい何に使った。


「おかしいな。ニワには結構な量の不純物を送ってやっていたと思うが」


 俺がそう尋ねれば、分かりやすく身体をビクつかせたニワがあたふたしながら口を開けたり閉じたりしている。


「……そ、それは……そうなのじゃが……」


 ニワがこちらを気にしてちらちら見ている。

 その様子は俺の顔色を窺っているようにも見える。

 はっきり言って子どもだ、悪さした子どものようにしょんぼりとしている。


 ――ぷっ!


「……のぅ……むむむ……」


 ニワのその反応が面白く、しばらく何も言わずに眺めていると、ニワは観念したのか、渋々といった感じで重い口を開いた。


「……実はじゃのぅ……」


 驚いたことに、迷宮主は気に入った物を主端末に吸収させて登録すると、次回からは不純物ポイントを消費して登録した物を何度も再現することができるようになるらしい。


「ふむ。登録と再現ね……それで……」


 その際、ポイントを消費するそうなのだが、いくら消費するのかまでは頑なに答えようとしなかった。


 でもまあ、ニワの「ひ、秘密じゃ」と言いながらも焦った表情を見ればかなりのポイントを消費するだろうことは容易に想像できた。


 ――どうせ俺の出した和菓子を、後先考えずに登録しまくり、何度も再現して食べていたのだろう。

 はぁ、これ以上問い詰めても何もならないか……


「分かった、分かった。ハの迷宮に不純物を出しといてやるから準備ができたら教えてくれ」


 さっさと不純物を入れてしまおう。


「おお!! そうか、そうか、クローよすまぬのじゃ」


 先ほどまで身を小さくしていた姿はどこへいったのやら、ご機嫌になったニワは、素直に嬉しそうな表情を浮かべていた。


「いいかニワ。間違っても今度のポイントは和菓子に換えたらダメだぞ」


「心配するでない。ちゃんと迷宮魔法が使用できる分くらいは取って置くのじゃ」


 ――こいつ……否定しなかった。


 やはり今までのポイントは和菓子に変換されたらしい。


「まあいい。たしか不純物をポイントへと変換するにはしばらく時間がかかるんだったよな? 準備ができたら教えてくれ」


「分かったのじゃ!」


 安心したのか、元気よく返事したニワの顔はすでにテーブルに置いてあるわらび餅に向けられていた。


「終わったカナ? それじゃ次はこっちを食べるカナよ。僕のおススメカナ」


「おお。それは楽しみじゃのぅ……」


 マゼルカナがわらび餅が乗った大皿からとり皿へと移す姿を嬉しそうに眺めているニワは無邪気な子どもにしか見えない。


「ふふふ、ニワちゃんは考えていることが全部顔に出てるから可愛いですね」


「うんうん」


 隣に控えていたエリザが、そんなニワを見て笑いだすと、その隣にいたマリーも釣られて笑みを浮かべていた。


 要らぬ仕事が増えた俺は、妻たちを先に訓練所へと行かせ、俺はゲートのある部屋へと向かった。


 ――――

 ――


「よし! ……これくらいあれば充分足りるだろう」


 迷宮主の部屋、その半分ほどを埋め尽くす量の不純物を適当に出した俺は、さっさと妻たちが待つ訓練所へと向かった。


 今日は妻たちの魔法の確認をするが模擬戦もすることになってるからな。


「くくく……」


 まだ数えるほどしか手合わせしていないが…… 妻たちとの模擬戦は楽しい。


「これなら、もっと早くから相手をしてやっても良かったな」


 今や模擬戦は俺にとってご褒美の時間へと変わっている。


 きっかけは些細なことで、俺との模擬戦に力み過ぎだった妻たちの身体をほぐしてやろうとおっぱいを触ったのが始まりだった……


 今では妻たちの攻撃を避けつつ、隙がある時や、力の入り過ぎている妻たちの身体を触る。

 肩や手足、あとは……おっぱいはもちろん、たまに頭やおなかの肉にお尻、太ももなんかも触っていく……サイコーだね。


 妻たちも触られるのは自分に隙があるからと自覚しているから何も言わない。

 でも俺が触るたびに顔を赤くしているから恥ずかしいのは恥ずかしいのだろうな……


 さすがに無理をさせても危ないから肩で息をするようになったら交代させているのだが、残念ながら三巡目するころには、立ち上がることすらできなくなっている……


「もう少し手加減した方がいいのかね……おっ!」


 屋敷から外に出ると、魔法を放っている妻たちを見つけたので、猛ダッシュでその側まで駆け寄る。


「待たせて悪かった」


「「「クロー!!」」」


「さっそく始めようか」


 ――――

 ――


「はぁ、はぁ、も、もう……立てません……」


「ぼ、ボクも……はぁ、はぁ……」


「あ、主殿、はぁ、はぁ、私は……もう一戦……」


 エリザと、マリーは欠かさず自主訓練を頑張っていたようで、属性魔法の他に魔法の球体(魔球)をスムーズに発動できるようになっていた。

 他にも俺が与えた魔法剣を小剣タイプや短剣タイプへと使い分けて発動できるようになっていた。


 魔力の扱いをまったく知らなかった当初からすれば、なかなかの進歩だろう。セリスの指導の賜物だな。


 セリスに至っては魔球を四つも発動できるようになっていた。


 さすがセリスだと思ったが、セリスはそれだけで満足していないらしく、その魔球から出す魔法線を他の属性魔法で発動できないかと試みているようだ。

 だが今日は少し張り切り過ぎたかも。


「みんな大丈夫か?」

 

 妻たちは今日も顔を真っ赤にさせて大の字で倒れている。


 ――張り切りすぎたかも。


 楽しい時間なんてすぐに過ぎる。しかも俺が張り切ってしまったから余計に早く終わってしまった。

 そんな自分に後悔しつつ倒れて息を整えて

いる妻たちを眺める。


 ――うむ。


 みんな色っぽい。なんとも言えない高揚感を覚える。


「マリー、スカートが捲れて下着が見えてるぞ」


「クロー……はぁ、はぁ……お願い……していい」


「ああ、いいぞ(さわさわ)……よし」


「……ありがとう」


 マリーは色っぽい下着が見えていたが、それを戻す余力も残ってないようで、俺が代わりにワンピースのスカートを戻してやった。もちろん狙ってやったこと、ついでに太ももを触ったのはご愛嬌だ。


「エリザとセリスは……」


 エリザはハイレグだがゆるい胸元からおっぱいが半分ほど溢れ、セリスも金属ブラがずれて、ばっちり見えているのだ。


「クロー……ごめんなさい。はぁ、はぁ、今は、動けないの……」


「主殿……すまぬ……」


「うむ。任せろ」


 サイコーの時間だ。にやけそうになる顔を必死に抑えエリザからおっぱいを元の位置に戻してやる。


「クロー、ありがとうございます」


 触られているのにお礼を言ってくれる妻たちがたまらなく愛おしい。


「うむ。気にするな。次はセリスな」


「んん……」


「セリスも、これでよし」


 セリスもずれていた金属ブラを元の位置に戻し出ていたおっぱいを隠してやる。


「主殿、すまない」


「気にするな……今日は少し無理をさせたようだからしばらく休んでいるといい……ん?」


 妻たちのすぐ近くに腰を下ろし休んでいると、


「クローさま、戻ったよ〜」


「クロー様、戻ったぜ」


 願い声の対応を済ませたナナとライコが人界から戻ってきた。

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