第109話
――ん?
執務室で寛いでいると外から妻たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「エリザ殿も、マリー殿もなかなか筋がいいぞ」
「本当ですか!」
「ああ、本当だ」
「セリスさん、今度はあっちにあるすこし遠い方の的を狙ってみてもいいかな?」
筋がいいと褒められてうれしそうにするマリーが遠くに見える的に向かって指差した。
ちなみに、その的は俺が妻たちの修練のために出してやったもので、動かないものから浮かんでゆらゆら揺れているもの、左右に揺れているもの、くるくる回っているものなどあらゆる状況を想定して設置してやったものだ。
「どれ……うーむ」
少し考えたセリスは魔球を二つ展開しマリーが指差した的に向け魔力線(マジックレーザー)放つと、次の瞬間には二つ的が撃ち抜かれていた。かなりの速度だ。
下級の悪魔程度ではまず躱せない速度だろう。
次にセリスはその二つの魔球自体を操ると、撃ち抜いた的のすぐ傍で、くるくると回っていた別の的に向かって魔球を放つ。
スピードに乗ったその魔球は平たく形を変えると、その的へと命中しあっさりと破壊した。
魔球はすぐにセリスの元に戻ってきて、新しいタイプのパイロットが操るファン○ルみたいに宙に浮いている。なんかカッコいいな。やはりセリスは子ども時代から聖属性の魔法を扱っていただけあって魔力の扱いがうまいな。
「うわー」
「セリスさんすごい!!」
二人から尊敬の眼差しを向けられるセリスはちょっと照れくさそうに頭を描く。
「……すこし遠いが……大丈夫だろう」
それから二人に遠くの的の狙い方を教え始めた。魔力の糸を的に繋げるイメージとかなんとか……
「みんな頑張っているな。どれどれ……おお! 早速、あの装備品も使ってくれてるじゃないか……ほほう」
そう、エリザとマリーは俺がハの迷宮、ニワの管理部屋から取って……けふん、貰ってきたものを装備していた。
マリー曰く、エリザが装備しているのは美綺の鎧・高品位型(ハイグレードタイプ)
全体的に銀色に金糸の紋様の入った感じは、神秘的でセリスの着ている鎧と共通しているが、残念ながらセリスの鎧を初めて見た時ほどのインパクトはなかった。
――残念だがセリスの鎧……あれは衝撃が強すぎたんだよな。
というのも、セリスはビキニタイプだが、エリザのはハイグレタイプ。上(胸部)と下(股間部)のVラインがとてもセクシー。でもなぜかお臍が見えているから自然と露出部分が多くなってるんだけど。
開いた胸元からおっぱいが溢れそうでちょっと心配だな。
――あれ……走ったら溢れないかな……
パッと見た感じ、金属に見えない金属、特殊金属でできた本体(ハイグレ)に、肩や腕、脚といったパーツがあってセリスのとよく似ている。
こちらのパーツも同じく取り外しが可能になっているようだ。
妻たちが着てるから俺もつい鎧を着てみたくるなるんだが、たぶん、俺の場合は人化を解いて悪魔になった瞬間に上半身の鎧が吹き飛ぶんだよな。
——はぁ。
ちなみに妻たちに与えていたガントレットはリング型にしてどこでも好きなところに嵌めれる伸縮機能を追加している。
次にマリーの装備だが、こちは美綺の鎧・1V型になるらしい。
全体的に銀色に金糸の紋様入り神秘的な感じはこのシリーズの共通、防御力なんてないように見えても障壁が強力なのも共通している。
マリーの鎧はたぶんワンピースタイプだ。
正確にはチューブトップ型のワンピース。腰の部分がミニスカート並に短いけど、シースルーのひらひらした布が腰回りからついていて良い仕事をしている。
しかし、スカートから伸びたマリーの引き締まった美脚はいいが、胸がちっぱいだけに、チューブトップワンピースが何かの拍子にストンっと抜け落ちないか心配になるな。
――肩ひもを付けとくか……いや、ベルトがあったな。
しばらく眺めていると妻たちは走りながら魔球を操り飛ばす練習に移った。
走るエリザとセリスのおっぱいはいつ見てもすばらしい。マリーのは揺れないけど……膨らみがあるだけで癒されるからオッケー。
――これだよこれ。これこそスローライフ。俺はずっとおっぱい……じゃなくて妻たちとのんびりしたかったんだよ。
「……ふふ、ふふふ」
ん? 変なことばかり考えているが、大悪戯はどうした? ふふふ、心配しなくてもちゃんと考えているさ。
どうやったらこちらに被害がなく且つ俺が楽に勝てるか、をね。
そして、思いついたのが迷路を創り出すことだった。
参考にしたのはハの迷宮だな。あの四つん這いで通らないと通れない狭い通路。
人一人がやっと通れる迷路を強度最大にして俺の使用空間いっぱいに作り出す。
これなら人数に差があっても関係ない。
最初から最後までずっと四つん這いで進まないと進めないのさ。迷って行き止まりなんかに行ってしまったら大渋滞が発生するだろうがね。
――くくく、なかなか楽しめそうだ。
セラが言うには第4位格悪魔もかなりいるらしいが焦りはない。
要所で俺が待ち構え一人ずつ潰せばいことだし、場合によっては後ろから回り込んで潰していくのもいいな。
——はぁ……
思い出したらため息が出たよ。さすがの俺も自分の異常性には気づかされてしまったし……面倒だから考えたくもないんだけど……
――俺が調整者(コーディネーター)候補ね……
俺はハの迷路、配下みんなの昇格、進化を知らせる囁きがあった時のことを思い浮かべた。
――――
――
【キミいいね。いいよ。配属悪魔の進化は初めてのことだよ……やはりキミは調整者に向いてるね】
――? 何を言っている。
突然のことに俺は訳が分からず首を捻る。
【ん? 何ってキミが調整者に向いているって言っただけだけど】
――調整者(コーディネーター)?
【あれ、もしかしてキミは覚えていないのかい? (僕もつい最近まで忘れていたんだけどね)】
――そんな言葉、記憶にない……というか初めて聞いたと思うが……
【(あいつ、ちゃんと仕事しなかったのか?)そう? まあいいや。正確にはキミはまだコーディネーターの候補ってだけなんだけどね】
――候補? さっきから意味が分からないんだが……
【うーんと……そうだね。早い話が、君に備わった異常な能力こそ、その証なんだけど……そんな能力あるよね?】
【固有魔法】
★所望魔法
【所持魔法】
悪魔法
攻撃魔法 防御魔法 補助魔法
回復魔法 移動魔法 生活魔法
【固有スキル】
不老 変身 威圧 体術 信用
デビル汎用シリーズ
魔力同調 ★悪魔の声
★攻撃無効 ★魔法無効 ★状態無効
――……
【今はそれだけしか証明してやれるものがないかな……ほら、君には5? ……あれ2つじゃなくて5つ??】
――た、たしかに……言われてみればそのスキルと魔法は少しおかしい、のかな?
【少し?】
――……いや……悪魔はみんなこんなもんだと思っていたんだけど……
【……悪魔はこんなもの? 悪魔とは……悪魔ね。君はまるで違う何か……ああ、なるほど君は残っているのか。キミいいよ。やっぱり面白いよ】
――なあ……もしかして俺って何か役目があるのか。それだと正直困るんだが……俺はスローライフや、スローライフとか、スローライフを目的にしてて……
【なんだよそれスローライフしかないじゃないか。くっくっくっ。でもまあ今は候補者だし全然気にしないでいいよ
あ〜でもディディスの件はキミが近くにいてくれてよかったよ。手間が省けたからね】
――ディディス? ディディスってあのディディスだよな? 俺としてはたまたまだったんだけどな……
【コーディネーターってさ、この世界の矛盾、つまり相反する存在の排除を任せているんだよね……だからたまたまでも、ほんとキミが近くにいてよかったよ。僕も楽ができたし】
――楽ができたって、まあいい。それよりも矛盾だとか相反とか、よく分からないんだが……
【あれ、気づかなかった? 君は攻撃無効スキル持っているだろ? 無効だよ? 無効】
――……ああ、それが何か関係あ、る? あれ?? そういえば……ディディスの攻撃……痛かったな。
【お、それだよ、それ。ディディスは攻撃有効スキルを持っていたんだ。ガードしようが物で防ごうが必ずダメージを与えるという超越スキル。
つまり君とは相反していたわけだけど……そういった事象がこの世界では稀に起こるわけ。詳しくは話せないけど……矛盾や相反はこの世に綻びを入れる、だから良くない。とだけ覚えておいてよ。
そしてあのディディスはそのスキルの変更を拒んだ。まあ、それ以前に色々と問題はあったんだけど……何だかんだ偶然が重なって君の出番がきたってわけさ】
――ふーん…………あれ? ちょっと待ってくれ。それだと俺はどうなる? 無効だぞ。いいのかよ?
【ふふふ……】
――な、なんだよ。
【どうしようかな〜。あ〜でも、やっぱりここまでかな〜。でも配属悪魔の進化は初めてみられた現象でなかなか楽しませてもらったよ】
――なんだよそれ。
【何か楽しいことでもしてくれたら僕は口が軽くなるんだけどな……あ、でもこのことは誰にも言わない方が君のためだよ……】
――……
その後は引き返そうと決めたが色々あって結果的には迷宮主のニワと出会ったんだよな。
――――
――
――俺は静かにスローライフを送れればそれでいいんだけど……無理だろうか。
執務室の窓から鍛錬に励む妻たちを眺めているとトビラを軽くノックしたセラが入ってきた。
「クロー様、そろそろお時間ですが、準備はよろしいですか」
「ああ。いつでもいいぞ」
俺とセラは人界へと繋がるゲートとは別に設けているゲート室へと移動した。
「クロー様。少々お待ちください」
ゲート室に入ったセラは俺に軽く頭をさげると、すぐにゲート召喚に取り掛かった。
「ゆっくりでいいからな」
「はい」と返事したセラは口元に笑みをつくりながらも何やら呪文を唱え、金色のトビラをすぐに召喚した。
「それでは、クロー様の使用空間から悪魔界へゲートを繋げます」
「ああ」
セラがその金色のトビラに手を当て魔力を注ぎ始めると、そのトビラはゆっくりと開き始める。
「悪魔界へのゲートは、正直に申しますとまだ繋ぎたくなかったのですが……はい。これで悪魔界、悪魔城への通路が開きました」
トビラの先に冷たそうな石造りの小部屋が見えている。
「ありがとうセラ。しかし、なんで今回から支配地の譲受手続きが悪魔界にある悪魔神殿で行うことになるんだ?」
俺が面倒くさそうにそう言うと、セラが困ったように眉尻を下げて首を振った。
「すみません。こんなこと初めてのことですので私自身も戸惑っています……
ただ、あのカマンティスも代理を使わずに本人が来るようですので気を引き締めておきましょう」
「そうだな。同伴者は執事悪魔を一人だけだったよな? セラよろしく頼むぞ」
「はい。お任せください」
そう返事したセラは俺の左腕に右手を絡めてくると、俺の身体を引っ張るように金色のゲートとへと進んだ。
「せ、セラ?」
戸惑う俺に悪戯が成功したかのような笑みを向けるセラ。専属になってから前より距離が近くなったように感じるが、気にすることでもないので俺も悪魔城へと繋がるゲートをさっさとくぐった。
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