第91話 なんてこったの支配地編
「さすがクロー様です」
「セラ、何のことだ?」
「クロー様の契約者さま方のことです。クロー様の契約者さま方は長期契約者にもかかわらず、毎日の獲られる感情値が短期契約履行時に獲られる値に相当します。これは大変素晴らしいことです」
「ほう、そうなのか」
得られる感情値は複雑過ぎてよく分からない部分がある。そんな中、その辺りに詳しい配属悪魔のセラに言われるとなんかうれしくなる。
「はい。これで私も納得しました。なぜクロー様ほどのお方が、人族の契約者にこだわるのかと思っていたのです」
——ん?
契約者とは俺の妻たちのことだ。こだわるも何も俺の大切な妻だからとしか言いようがない。セラは何が言いたいんだ?
「いや、別に俺は……」
「みなまで言わなくても大丈夫です。私は常にクロー様の理解者ですから。全ては感情値を効率よく獲得するため。そうですよね」
「セラ。勝手に……」
「セラ勝手に決めつけるのは良くないぞ。それは感情値のためじゃなく、妻だからだ」そう口にしようと思ったそのとき、
コンコンコンッ!
「クロー様、イオナです」
俺の執務室をノックする音とイオナの声が聞こえた。セラとの話は途中だが、今日のところはこれ以上話を続けるのは無理だろうと諦める。
「クロー様、例の件で何か分かったのでしょう」
「ふむ」
セラが正面から俺の左後方に移る。正に俺に支える執事って感じ。まだちょっと慣れない。
「イオナ入っていいぞ」
「はいっ!」
返事と共にドアが開き、イオナが軽く頭を下げてから執務室に入ってきた。
ここ数日接して分かってきたが、イオナはかなり真面目な性格をしている。
そして、自分で言うのもなんだが、なぜか俺のことを崇拝しているっぽい。
上司として尊敬されるのはいいが、崇拝はさすがに……ね。
俺の勘違いであってほしいと思っている。
――俺はそんなにできた悪魔じゃない。
イオナは俺の前までくると綺麗な敬礼。
セラは満更でもない様子だが、俺は正直居心地が悪い。居心地が悪いのでさっさと話を切り出す。
「イオナ。教会の動向は何か分かったか? ここの教会には、少し面倒そうで油断できないヤツがいたからな。たまたま居ただけならいいのだが、ヤツらの動向は常に把握しておかねば、こちらが狩られかねん」
――確かセイルって言ってたか? あの時はまさか俺がここの支配地悪魔になるとは思ってもいなかったからな……
何かあっても逃げればいいと高を括っていたんだよな。
「はい。ここ二日ほど張り込み、昨日は信者になりすまして参拝して参りました」
イオナが何事もなかったかのようにとんでもないことを口にした。
「ぶはっ、参拝だと!? いくら俺が頼んだことだからって無茶するなよ」
――信者って……もし何かあったらどうするんだ。
「あぁクロー様が私のことを。クロー様、私にはそのお言葉だけで充分でございます」
どうもイオナは種族柄(デビルヒューマン族)自分を卑下する傾向がある。
普通の言葉をかけただけで頬を染め瞳を潤ませているし。
――しかし、俺は同種族なんだからそれほど気にする必要はないのだが……本人の性格なのか? ふむ。それとも今までの扱いや待遇がよほど悪かったのか? 少し心配になるな……
「これは普通のことだからな。そう畏まらないでくれ」
「はい。やはりクロー様はできたお方です」
「そうですよ。クロー様は素晴らしいのです」
セラとイオナが何故か握手している。
――こいつらおかしいわ。明らかにおかしいぞ。
「セラバス殿、クロー様は大変素晴らしいです。私たちの身を案じて、能力の高い装備品を授けてくださっています……
これほどのモノがあれば、与えられた任務など誰でも容易なことなのです。その上で、この心遣い……うっうっ」
――も、もういいです……
「ほら、イオナ様。報告するまでが任務ですよ」
セラは基本的に誰にでも様つけする。例外は同じ配属悪魔を呼ぶ時だけだ。
「ぐすっ、は、はい。失礼しました」
改めて姿勢を正したイオナが、教会で見てきたことを報告する。
「……なに、ではセイル司祭らしいき人物はいなくなったのか?」
「はい。他の信者に確認しましたので間違いないです。
後任の司祭はたしか……ゴーカツィというものでした」
――ゴーカツィね。知らんな。優秀な奴なのか? 気になるところだが、しかしまあ、あいついなくなったのか……ふむふむ。
「ふむ。分かった。あとは、そうだな……その信者たちは、他に気になるようなことなど、何か言ってなかったか? 今度の司祭は優秀だとか、聖騎士の数が増えたとかなんでもいい」
「はい。今度の司祭が優秀だとは耳にすることはありませんでしたが、前より献金を求められるようになったとか……他にも聖騎士から直接寄付金を求められたという信者もいましたね」
「ほう、聖騎士からも寄付金をね……他には?」
「そうですね、他には特に……あっ! これは私が感じたことなのですが、発言してもよろしいですか?」
「いいぞ。なんでも言ってくれ……」
「はい。お恥ずかしいながら私は以前から聖騎士が怖くてたまりませんでした……ですが、ここの聖騎士には、その……近づかれても恐怖感や危機感を抱くことがなく、不思議に思っておりました。
……これはクロー様に頂いた装備品の影響なのかもしれませんので……自信はありませんが……そう感じました」
――俺の与えた装備品か……だが、あのラグナって聖騎士なら俺の装備品ていどでは……ふむ。セリスを確認に行かせればすぐに分かるのだが……って、あ〜ダメだ、ダメだ。それだけは絶対にさせられん。
「イオナありがとう。助かった。では最後にこの金を教会に寄付しといてくれ」
俺は金貨がぎっしり詰まった布袋を机の上に一つ出した。
「これをですか?」
「ああ。教会は献金を求めているのだろう? ふふふ、望み通り与えてやろうではないか……ふむ。そうだな、これはしばらく定期的に与えてみるか……ほれ」
俺はイオナに金貨袋を手渡した。
「おお、これは……けっこうな量ですね。なるほど、これを寄付するのですね。畏まりました」
「そうそうイオナ。これは誰からの献金なのか分からないようにこっそりと入れるんだぞ」
「はい!」
嬉しそうに返事をしたイオナは、金貨袋を受け取ると軽く頭を下げてから、素早く部屋を出ていった。
「ふふふ、さすがクロー様。面白いことを考えられますね」
「まあ、策といえるほどのことではないが、これで金に溺れてくれれば、俺の活動がしやすくなると思ってな」
「ご謙遜を……金に溺れた人族の感情値は結構なものですよ」
セラが感心した様子で頷いてみせる。
「そうか。セラがそう言うならそうなんだろな。
それで頼んでいたものはそろそろなのか?」
「はい。先ほど確認して参りましたので、もうそろそろかと……」
コンコンコンッ!
「できたカナよ」
ノックと同時にドアを開けて入ってきたのは二足歩行のタヌキだ。というのはさておき、管理悪魔族=マネジメート族のマカセルカナ。
俺の使用空間に配属された悪魔の一人だ。
――――
――
三日ほど遡る。
「ふぇ〜広いね〜」
「ここが悪魔界なのね」
「正確には悪魔界の中のクロー様の使用空間になります」
目をパチクリさせて驚いているのはエリザとマリー。それに応えたのはセラだ。
セラは俺と別れて10日目の朝に迎えに来た。
この10日間も色々あったのだが何も言うまい。
「ほぅ……ここが主殿の使用空間なのか……」
セリスも興味深く俺の使用空間内を見渡している。
足下には切りそろえられた芝生が生い茂り空を見上げれば青空が広がっている。
ディディスの空間との違いに思わず頬を摘みたくなった。
「青空だな……」
ただ不満というか。この俺の使用空間が広過ぎて屋敷が小さく感じるのが腑に落ちないが、ランクが一番下の屋敷という割には立派な建物かな。
遠くから見た感じは洋館っぽい。
「ねぇクロー、ここに私たちも住んでいいの?」
妻たちが心配そうに俺の顔を見ている。
ちなみにセリスも俺との契約を妻契約へと結び直している。
セリスは以前の契約が切れる間際に「この契約の最後に主殿の背中を流したい」とお風呂に誘われ、まあ、なんだ。そのまま……ナニして妻契約する流れに。うまくやり込められた感はあるが、セリスは美人でおっぱいも最高。性格はちょっとクセがあるが気になるほどでもない。それにエリザとマリーとの仲も良好とくれば後悔することはない。
というのも、セリスと妻契約したあとお風呂場から出ると、エリザとマリーがチビスケとチビコロがお風呂場に入らないようにお肉で釣って食い止めていたのだ。計画的犯行だったのだろう。
契約後は顔を真っ赤にしたセリスをエリザとマリーがすぐに捕まえてどこかに行った。
一人残された俺はチビスケとチビコロと再びお風呂に入り、羊のようにふわふわの泡をたっぷりつけてやったのは記憶に新しい。
「もちろんだ。ここでは一人一部屋用意してある。そうだよなセラ?」
「はい。クロー様のご契約者様である皆さまの部屋はちゃんと準備しております。
クロー様のご要望通りできる限りの物を揃えておりますよ」
セラは俺が妻たちを可愛がっているのを知っているため、その扱いは丁寧なものだった。ほんと有り難い。
「ねぇねぇ、クローさま。あたしたちの部屋もあるよね?」
むにゅん。
背中に柔らかい感触と共にナナの弾んだ声が耳元から聞こえた。
「こらナナ。背中にひっつくな」
気持ちいいので無理に剥がす様なことはしないけど。
「あるよね?」
「はぁ、たくっ。もちろんだよ。ナナたちの部屋もあるに決まってるだろ」
「えへへ……あっ! ちょっと……」
ナナはよほどうれしかったのか、俺の背中から回していた両腕の力をさらに強くする、が、
「ナナ様、皆さまの前です。お戯れはおやめください」
セラが俺の背中に張り付くナナを、見事なほど鮮やかに引き離す。
「むう……セラバス」
ナナが恨めしそうにセラバスをじーっと眺めている。
「はい。ナナ様どうかされましたか?」
「なんでもないもん……にひひ」
悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべたナナは、俺の隣まですたすた歩いてくると素早く右手を絡めてきた。
いつものことなので俺は気にしないが、セラは頬が若干引き攣ったように……いや、気のせいだろう。
「では、ここではなんですので、あちらに見えております屋敷まで空間移動しますので、皆さんは私の周りに集まってください」
「みんなセラのところに集まってくれ」
「「「「「はい!」」」」」
みんなが集まるのを確認したセラは、最後に俺の手をぎゅっと握ると同時に屋敷の中へと転移した。
「はい。こちらがクロー様のお屋敷になります」
「お待ちしてましたがぅ……です」
「そうがう……です」
「よろしくカナよ」
転移すると、すぐにエントランスで待機していたらしい三人の悪魔に出迎えられた。
「こちらの三人が配属悪魔になります。と、言いたいところなのですが、あいにくと屋敷の維持や身の回りの世話などを任せるべき人形悪魔族(メイドール族)が不足しておりまして、この二人はその繋ぎの者。見習いメイドになります。ほらクロー様にご挨拶しなさい」
明らかに小さな悪魔が二人セラの前までトコトコ歩いてきた。
「がぅ。ニコはニコ……スケがぅ、です」
可愛らしいメイド服を着た幼女だ。銀色のショートボブくらい長さの髪を右サイドで一つ結びにしている。
大きな瞳が可愛らしく感じるが表情は乏しく無表情。
特徴的なのが大きくて犬みたいな耳と大きな尻尾。どちらもふわふわもこもこしていてその尻尾が気持ち良さげにゆらゆら揺れている。
ただぱっと見ではツノと羽は確認できない。
――そういえばグラッドがメイド族は表情の変化がないって言ってたな……
「名前はニコスケ? でいいのか?」
「そうがぅ。ニコはニコスケがぅ……です」
——ニコって言ってるがニコスケなのだろう。
「そ、そうか、よろしくなニコスケ」
「よろしくがぅ、です」
「はい。つぎはミコがう。ミコはミココロがう……です」
もう一人の可愛らしいメイド服を着た幼女が俺の前でぺこりと頭を下げた。
こっちの子も銀色のショートボブくらい長さの髪を左サイドで一つ結びにしている。
大きな瞳が可愛らしく感じるがこっちの子も表情表現が乏しく先ほどから表情が全く変化しない。
特徴的というかすごく目立つのが大きく犬みたいな耳と大きな尻尾。こちらもふわふわもこもこしていて気持ち良さげにゆらゆらと揺れている。
やはりツノと羽は確認できない。
――やはりメイド族は似ているな。それに表情が乏しいのも。グラッドの言った通りだが……しかし、この子たちに手を出すなってなんだよ……グラッド、お前……ロリ……
いや人の性癖に口出すのはやめよう。彼は彼なりに譲れないものがあるのだろう。なんてったって俺たちは悪魔だ。好きにすればいいんだ。
「そうかミココロか。分かったよろしくな」
「よろしくがう……です」
ミココロがぺこりと頭を下げた。その仕草が可愛らしくて思わず頭を撫でてあげたくなるがぐっと堪える。
――うぬっ。
「クロー様。ご安心ください。この二人はまだ見習いメイドですので人件値はかかりません」
「? そうなのか。それは助かるな」
――人件値気になっていたんだよな。俺はいったいいくら納値することになるんだろう。
「つぎは僕カナ?」
次に前に出てきたのは……
――タヌキだ。
「僕はマカセルカナ」
そう言ったマカセルカナは頭を下げた。
二足歩行のタヌキが可愛らしいチョッキみたいなのを着ている。肩から下げたガマ口財布が非常に気になるが、小さなツノと背中に小さな羽、タヌキと同じ様な大きな尻尾がある。こいつもちゃんとツノと羽と尻尾があるからちゃんとした悪魔だ。
「マカセルカナは管理悪魔族(マネジメート族)です。クロー様」
「そうか、マカセルカナもよろしく頼むな」
「お任せカナ」
「ニコスケとミココロは皆さまをそれぞれの部屋にご案内してください」
「分かったがぅ、です」
「分かったがう……です」
「マカセルカナはクロー様と支配地について少し話をしましょう。クロー様、よろしいですか?」
「分かったカナよ」
「ああ。よろしく頼む」
「はい! はいはいっ! クローさま、あたしも行くよ!」
置いていかれるのが嫌なのか、ナナが珍しく必死な顔で訴えてくる。
「セラ……ダメか?」
「……分かりました。では今回は配下の皆さんを含めて今後について少し話を致しましょう。
いずれにせよ、一度は説明しないといけないことがありますのでちょうどいいです」
「「「はい」」」
イオナたちが笑みを浮かべ俺たちの側に寄ってくる。
「エリザ、マリー、セリスは……そうだ。ニコスケとミココロに各部屋を案内してもらっておくといい。慣れない場所で不安だろうから……ラット、ズックお前たちも頼む」
『主、任せて』
『あるじ、まかせて』
留守番で人界に置いてきていたラットとズックを呼び出し妻たちの護衛に着いて行かせる。
「ええ、分かったわ」
「ボク、楽しみだな」
「うむ。私もだ。ここは実に興味深い……」
妻たちは小さなメイド悪魔に案内されつつ屋敷の奥に歩いていった。
――でも、良かったわ。うんざりするほどの人数の配属悪魔が配置されているものと思っていたが、これなら人件値はそれほどでもないだろう。ちょっと身構えすぎていたわ……
しかし、この考えはすぐに早計だっと思い知ることになる。
「では、クロー様。それに皆さまもこちらに……」
セラに案内されて会議室っぽい部屋に入る。
「では、今回は皆さまに関係することから説明いたします……」
セラが支配地について、配下が聞いていても差し支えない程度の話を簡単に語ったが、その内容は主に『願い声』についてだった。
『願い声』とは人族の強い欲望の声が俺たちの耳に届くその声のことだ。俺は鬱陶しいから聞こえないようにしている。
この声を聞き入れて、その欲望を満たしてやり、昂ったその感情値を対価にいただく。
セラ曰くこの願い声は復讐に関することが多く、雑に扱ったとしてもある程度の感情値は稼げるのだとか。だからそう難しく考える必要はないらしい。
ただ、これには向き不向きがあり、俺は女性の声しか対応したくない。
ナナとイオナは男性の声のみ、ライコだけがどちらの声も対応できるみたいだ。
――ライコありがとう助かった。女性の声を俺一人で対応するなんて過労死するわ。
「なるほど。使用空間に居ると、支配地から人族の願い声が届きやすくなるのだな?」
「はい。『願い声』は使用空間に優先して届くのですが、放っておくと他の野良悪魔を呼び寄せたり、悪魔大事典を呼び寄せたりと、要らぬトラブルを招きますので早急に対応した方がよいでしょう」
――ああ……悪魔大事典ね……
俺は大事典からの召喚現場を二度見ているのですぐに納得できた。
「セラ。よく分かったよ。みんなもこれからよろしく頼むな」
「「はい」」
「わかったよ」
「それと契約は必ず短期契約にするのです。そうでないと捌ききれませんよ」
「「「え!?」」」
皆が青い顔をして俺を見る。
「そうですね。この人数ですと一人頭……二、三人ってところでしょうか……クロー様は五人くらいかと……」
――ご、五人だと……
しかし、明らかに皆のテンションが下がっている。
元々自由を愛する悪魔たち。毎日人族の願い声など聞きたいとは思わない。俺もそうだ。だが、そうも言ってられない。
なんといってもここは俺の支配地だ、俺が動かねば誰も動いてくれん。
――さて、どうやってみんなをやる気にするか……
それほど皆のことも知らぬし……こんな場合は飴と鞭の気持ち…飴でいってみるか……
「よし! 実績の半分はお前たちに還元しようではないか。格を上げるもよし、好きなものと交換するもよし」
「え? クローさまはそれで大丈夫なの?」
ナナが心配そうに俺を見る。
「えっ! そんなにですか!!」
「おお!! それなら張り切ってやっちまおうかな」
知らなかったが、感情値は他にも悪魔界で流通しているモノと交換することができるとセラが教えてくれた。
「クロー様、半分はやり過ぎでは?」
「いや。俺はこれでいい。皆がやる気になった方がいいだろう」
――セラまで不安な顔をすると俺まで不安になるが……言ってしまったもんはしょうがない。
「それはそうですが……分かりました。クロー様は何かお考えがあるのでしょう」
俺はここでも早計な判断をしてしまったと後で後悔する。
「では、今日はゆっくりして、明日から頑張ってもらおう」
皆が立ち上がり部屋を出ていこうとしたところで俺は気になっていたあることを思い出した。
「そうだった。すまんが、だれか一人でいいんだが、支配地にある教会を少し探ってほしいんだが……だれか頼めるか?」
皆の顔をゆっくり見渡すが、皆が俺から顔を背けていく。
「あ、あたしは教会嫌いだもん」
「あたいもだ」
どうやら俺には人望がなかったらしい。
「はぁ、仕方ない、俺が……」
俺が自分の人望のなさに軽いショックを受けていると――
「それならば、私が……私ならば人族に紛れ混むのは得意です」
俺と同種族のイオナがこの任務に当たってくれると言ってくれた。
気分を下げられた後なので、イオナのこの申し出は純粋に嬉しい。
「イオナ。そうかそうか。そう言ってくれると助かる。よし! 任務の間は、俺が叶えた願い声の半分をイオナに還元してやるよ」
「いいのですか?」
イオナが胸の前に手を置き素直に喜んでいる。
「ああ。いいぞ」
「ありがとうございます」
「ええ〜それずるいよ」
「あちゃぁ、失敗したな」
ナナは頬を膨らませ、ライコは頭を掻く。
「あとは……そうだな。マカセルカナは収支報告書のような……今現在の感情値の出入りがわかるものは出せるか?」
「お安い御用カナ。でもクロー様に代わってからの感情値の動きが少し知りたいから……三日ほど時間がほしいカナ」
マカセルカナがメモサイズのノートをポンっと取り出してから、ペラペラとめくりながらそう言った。
「ああ、それで構わない。よろしく頼む」
「分かったカナよ」
――――
――
「できたカナよ」
誇らしげにタヌキ悪魔の、ケフン。管理悪魔のマカセルカナが数枚の魔法紙を手にトコトコ入ってきた。
「おお、そうか。では早速見せてくれ」
「これカナ」
「どれどれ……!?」
マカセルカナが短い腕を目一杯伸ばし手渡してくれたが、俺はその用紙を見て目眩がしそうになった。
思わず目を瞑り右手で眉間を抑える。
「クロー様?」
セラの気配が近づいてくる。心配して俺の側にきたのだろう。できた執事だ。
「赤字だ……」
俺の支配地は大赤字だったのだ。
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